学歴と仕事の能力に相関あり
「流動性知能」とは

 心理学者のホーンとキャッテル※の研究によると、人間の知能は「流動性知能」と「結晶性知能」の2つに分けられます。

 流動性知能とは、新しい環境に置かれたとき、そこに適応するために情報を得て、操作する知能のことです。臨機応変に問題を解決し、創造的に考える力とも言い換えられます。

 具体的には、計算力、暗記力、法則を発見する力(ばらばらに存在する事象から共通点やルールを見出す力)、膨大な情報を素早く取捨選択して結論を導く処理スピード、整合性をロジックで裏付ける力などが含まれます。

 流動性知能の発達は、10代後半から20代前半にかけてピークを迎え、その後は徐々に低下していきます。

 一方、結晶性知能は学習経験の積み重ねから得られた判断力や習慣の力です。人生を通じて培ってきた知識・経験に基づく力であるため、加齢による低下は少なく、認知症でも、結晶性知能はなかなか落ちないと言われています。ベテラン社員が持つ「勘と経験」はまさにこれに当たります。

 現代のビジネスで求められるのは、主として前者の流動性知能です。新しい課題を前にして、情報を素早く取捨選択し、ルールを発見し、論理的に解決策を組み立てる。これは結晶性知能では代替できません。

 大学受験期は流動性知能のピークの年代に重なります。難易度の高い大学入試に向け、限られた時間の中で膨大な情報を処理し、法則を見つけ、論理を組み立てるという受験勉強は、流動性知能の鍛錬になると考えられます。この意味で「学歴」は流動性知能の高さのひとつの指標になりうるのです。

 だからこそ採用現場では、学歴と職能の間に一定の相関があるという現実も無視できないのです。これは学歴差別や偏見ではなく、流動性知能という観点から見た1つの統計的な事実です。

高学歴でも仕事ができない人、
学歴が低くても仕事ができる人

 ただし、これは「学歴が高い=仕事ができる」という短絡的な結論を意味しません。

 正確には「学歴が高い人は流動性知能が高い傾向があり、だから仕事ができる可能性が高い」ということにすぎません。

 相対的に学歴が低くても、同等の流動性知能を持つ人材は確実に存在します。たとえば、スポーツ推薦を受けた人が学業以外の分野で徹底的に流動性知能を使っているケースです。他にも、本来であれば偏差値の高い大学に入学できたはずの学生が「学びたい学問領域や師事したい教授」という基準で偏差値の高くない大学で流動性知能を発揮するケースもあります。

 鋭い人は、逆のケースもあることに気がついたのではないでしょうか。

 大学入学後に学業やそれ以外の知的活動をほとんど行わず、流動性知能の成長が止まる人もいます。日本の大学は入るのが難しく卒業するのが比較的容易な構造のため、こうした事態が起きやすいのです。

 また、有名大学の卒業生でも、受験時に特定の科目に限定して能力を磨いた場合、その能力は「領域固有性」が高く、仕事への汎用性が低いことがあります。例えば、歴史だけいつも満点を取るようなタイプの人がこれに該当します。

 また、次の2通りの場合では流動性知能が高くても成長が止まってしまいます。

 ひとつは、仕事の目的や意義を自ら見出せない人。こういう人はパフォーマンスが低下します。いわゆる「ジョブ・クラフティング」※ができるかどうかで、同じ高学歴の人の中でも中長期的なパフォーマンスに大きな差が生まれます(※2)。

 もうひとつは、「当たり前水準」が低い場合。当たり前水準が低い人は、平均値に他人より早く到達したあと、そこで満足してしまいますが、そこから先の努力をしなければ、仕事で突出した成果を生み出すことはできません。

面接で流動性知能を測る
3つの方法

 では、学歴に頼らず、真の流動性知能を見極めるにはどうすればよいのでしょうか。3つの方法を紹介します。

 1つ目は、仕事の意義を自分で見出せるかを確かめること。 

 面接で「これまで取り組んだ課題では、どうやって自分なりの意味や目的を見出しましたか」と問うことで、ジョブ・クラフティングの素地があるかどうかが見えてきます。

 2つ目は、「当たり前水準」を問うこと。

「あなたにとって、どこまでやり切ることが自分の普通でしたか」「どの水準まで仕上げて初めて頑張ったと言えましたか」と聞けば、その人の努力の基準線が見えてきます。

 3つ目は、ケース面接やフェルミ推定の導入です。

 初見の課題に対して論理を構築するプロセスを問うことで、法則発見力や本質把握力という流動性知能の核心部分を直接測ることができます。

「日本全国に電信柱が何本あるか計算してください」といったフェルミ推定はコンサルティング業界の採用でよく使われることは有名です。また「自社にこのような課題があった場合、どのような解決策が有効か」というケース面接は責任者ポジションの中途応募者には特に有効です。

 知人の人事マネージャーは、転職先の最終面接で「自社の課題をすべて伝えるから、2週間後に対応策をプレゼンしてほしい」と言われたそうです。

 大学受験の時期に流動性知能を磨き、ある一定レベルに達したという記録としての学歴は、採用において無視できない一つの指標です。しかし、採用側が忘れてはならないのは、学歴だけを見ることの危うさを理解し、学歴の裏に何があるかを問い、その人の思考の質を直接測る工夫を重ねていくことなのです。

【参考文献】
※1 Cattell, R. B. (1963). Theory of fluid and crystallized intelligence: A critical experiment. Journal of Educational Psychology, 54(1), 1–22. https://doi.org/10.1037/h0046743
  Horn, J. L., & Cattell, R. B. (1966). Refinement and test of the theory of fluid and crystallized intelligence.Journal of Educational Psychology, 57, 253–270.
※2 本連載第36回「いいから黙ってやれ!」上司の理不尽な指示をエネルギーに変える「メンタルおばけ」の“圧倒的な思考法”
え、逆じゃない?採用市場で「学歴重視」の傾向がどんどん強まっているワケ【人事採用のプロが語る】

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