香山リカ先生が繰り返し使ったのは
「うつ病セレブ」という別の表現

 最初に確認できるのは、2008年に精神科医の香山リカ先生が出された『「私はうつ」と言いたがる人たち』(PHP新書534)の一節のようです。この本の中に「うつ病の診断書をもらって休職し、会社から手当をもらいながら趣味などを楽しんでいる人たちがいる。こうした新型のうつ」といった記述があります。

 ただ、香山先生に「新型うつ」という言葉を流行らせる意図があったかといえば、そうではないだろうというのがぼくの見方です。なぜなら、ぼくはこの本を、目を皿のようにして読んでみたのですが、「新型(の)うつ」という表現が使われているのは、この1か所だけ。

 むしろ先生が繰り返し使っているのは「うつ病セレブ」という別の表現です。ところが、よりインパクトのある「新型うつ」だけが切り取られ、世の中に広まってしまった。これが「新型うつ」騒動の正体だったのです。

「うつ病」への誤解が重なって
「新型うつ」が生まれた

「新型うつ」という言葉が出てきた背景には、いくつかのパターンがあります。

 1つは、本当はうつ病ではないのに「うつ病」として休職しているケース。例えば、職場ではパワーハラスメント上司の存在で気分が沈んで「うつっぽく」なるけれど、プライベートでは普通に元気。そんな人が「釣りに行きました」とブログに書けば、「うつ病なのに楽しそうにしている!」「新型うつだ!」と周囲から見られてしまうわけです。

 もう1つは、診断書の問題。本当は双極症なのに、診断書には「抑うつ状態」や「うつ病」と書いてある(最初は診断名に双極症を書かない医師も少なくありません)。

 その後、躁状態に転じて活動的になっても、事情を知らない人からすれば「うつ病のはずなのに遊んでいる」と誤解される。これも「新型うつ」とされやすいパターンです。

 さらに、残念ながら悪意のケースも存在します。実際は病気ではないのに、障害年金や傷病手当金を目的に「うつ病」を装う人たちです。中には悪徳な社労士と組んで不正に給付を受け取ろうとする事件も起きています。