もちろん、まっとうな精神科医は実態と違う診断書は書きませんが、社会的に「新型うつ」という言葉が広まってしまった背景には、こうした事例もあったかもしれません。ぼくはそのような依頼はもちろん断りますが、実際あり得ることはお伝えしておきましょう。

患者に本当に必要なのは
薬ではなく相談に乗ること

 では、こうした誤解や問題を防ぐにはどうしたらいいでしょうか。

 まずはやはり、正確な診断が必要です。例えば「パワーハラスメント上司がいる職場に行きたくない」と訴える患者さんに必要なのは、薬で治療することではなく「相談に乗る」ことです。

 臨床心理士の東畑開人先生が書かれた『ふつうの相談』(金剛出版、2023年刊)という本があります。東畑先生は「心理士というのはだいたい自分が得意とする専門的な心理療法を持っている」とした上で、「どんな人にでも自分の得意な療法をするということになると、もうこれは呪術師と一緒だ」といったことが述べられています。

 呪術師は、どんな人にも「あなたには霊がついている!」と言う。自分の得意な心理療法でしか患者さんに向き合わない心理士は、こうした呪術師と変わらない。大切なのは、この人には霊がついているけれど、こっちの人にはついていないと、対象者を峻別すること。峻別した結果、必要な治療が自分の専門外なのであれば、ほかの専門家を紹介する。

 とはいえ、それもなかなかうまくいかない場合がある。なので、自分の専門の療法が適さない人の場合には、まずは相談に乗る。この「ふつうの相談」というオプションがなければ、プロフェッショナルとしては失格ではないか。本の中には、表現は少し異なりますが、こういったことが書かれていました。