似て非なるドールとぬいぐるみ
男性愛好家の嗜好の違い

 ひと口に「ぬい活」と言っても、愛好する対象は大きく2つに分けられる。三橋氏はその違いを次のように分析する。

1. 推し活型
 アイドル、アニメキャラクター、ボーカロイドの初音ミクなど、特定のモデルをかたどったぬいぐるみが対象で、ファン活動である「推し活」の一環として持ち歩くケースが多い。

2. 愛着型
 動物やアニメの登場人物を象ったキャラクタードールなど、造形のモデルは幅広いが、持ち主はぬいぐるみそのものを気に入って大切にする。市販品から自作のものまで幅広く、日常のパートナーとして扱われる。

 また「ドール」と「ぬいぐるみ」では愛好家層が異なるため、趣味のジャンルとしては区別されることが多い。

 ドールの特徴は、髪や顔、服、目に至るまで、一から選んで「創り上げる」派のファンが多い。ドールのオーナー(持ち主)にとって、自分の好みに合わせて作り上げるドールは、「子ども」に近い感覚だ。対してぬいぐるみは、ファンとして「推し」を応援する思いや愛情、思い入れといった感情を託す「媒体」に近い。

 三橋氏は「壊れないように保護するケースに入れて持ち運ぶドールと違って、カバンに無造作に入れて持ち歩ける手軽なぬいぐるみは、生活に取り入れるハードルが低い」と語る。出先でさっと取り出して携帯で撮影し、気軽に思い出を残せるぬいぐるみは、忙しいビジネスマンのライフスタイルにも合致しているのだ。

責任ある男性ほど「ぬい」にハマる
心理学的な根拠があった

 ではなぜ、キャリアを積んだ大人の男性がぬいぐるみに惹かれるのか。

 ぬいぐるみを用いた心理ケアを提唱する、心理コミュニケーションアドバイザーの伊庭和高氏は、「ぬい活」が世の中に広まった理由として、趣味の世界から、性差や年齢の垣根が取り払われた現代の傾向が関係していると指摘する。そして、そうした時代の流れの中で、現代男性特有の「悩み」が加わり、日常に「ぬい活」を取り入れられるようになったというのだ。

 伊庭氏のもとには、日々多くの相談が寄せられるが、成人男性に共通して多い悩みは以下の通りだ。

比較による焦燥:同僚や部下とのキャリアや能力を、自分と比べてしまう
立場による重圧:役職が上がり、弱音を吐けないプレッシャーを感じている
完璧主義のわな:常に「正解」を求められ、心が休まる暇がない

「多くのビジネスマンは社会的な役割を担い、職場や家族の前で理想的な人物を演じています。偽りの自分を生きている彼らにとって、ぬいぐるみは『無条件の肯定者』になるのです」(伊庭氏)

 心理学の世界では、ぬいぐるみを「移行対象(トランジショナル・オブジェクト)」と呼ぶことがある。これは、乳幼児が母親から離れる際、不安を落ち着けるために常に持ち歩く物(タオルケットやぬいぐるみなど)を指す概念だ。成人後も同様の安心感を再現するため、ストレスを緩和させる効果があるのだ。

 伊庭氏によれば実際、大事な商談やプレゼンの前に、バッグの中に入れておいたぬいぐるみに触れて、冷静さを取り戻しているビジネスマンもいるという。