コストプッシュインフレ下で
消費税減税はいかにもおかしい

 こうして、物価高騰は避けられない。エネルギー価格の上昇は、ガソリンや電気料金だけの問題ではない。物流コストや、石油関連の原材料を使う化学製品、素材産業、食品などの価格上昇など、あらゆる分野に波及する。

 日本では賃金上昇が物価上昇に追いつかない状況が続いている。供給制約によるコストプッシュ型インフレが強まれば、実質賃金の改善は期待しにくくなる。家計にとっては、名目賃金が多少増えても、それ以上に生活コストが上がれば、生活は圧迫される。

 こうした状況下で、政府は電気ガス代補助の延長の方針を決めたが、いかにも奇異なのは「物価対策のための消費税減税」が最優先課題になっていることだ。

 少なくとも今回想定されるような事態に対する処方箋としては適切でない。日本が直面しているのは、海外の地政学リスクによってエネルギー価格が押し上げられる供給ショックだからだ。

 供給制約が原因で物価が上がっているときに、需要刺激策としての減税を掲げても、問題は何も解決されない。原油価格などの高騰に対応が必要なのは、物価上昇に脆弱(ぜいじゃく)な層への重点支援だ。

「脱炭素」軸のエネルギー政策だが
安全保障の重要性が高まる

 また、今回の局面では備蓄があるため、供給不安は現状では大きな問題ではないが、エネルギー調達の多角化、電力・ガス供給の安定確保への対応、そして中長期的な安全保障戦略の立て直しが必要だ。

 これまでの日本のエネルギー政策は、地球温暖化防止を軸として作られてきた。そのために、「脱炭素」が必要とされてきた。

 この観点は依然として必要だが、それに加え、エネルギー安全保障の観点が重要になった。

 25年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画は、2050年のカーボンニュートラルを見据え、40年度の電源構成として再生可能エネルギーを4~5割、原子力を2割程度へ引き上げる方向を示した。

 今後もホルムズ海峡封鎖、あるいはそれと類似の問題が起こるかもしれない。したがって、エネルギーの安全保障問題について、真剣に考えなければならない。

 重要なのは、ホルムズ海峡封鎖が実際に起きたことだ。これまで、その可能性は何度か指摘されていたが、実際に封鎖されたことはなかった。今後は、エネルギー危機という問題が、脱炭素と同じような重要性を持つ問題と考えられるかもしれない。

 この問題は、もちろん原子力エネルギーの位置付けの再検討という問題と密接に結びついている。しかしこれは、福島原発の廃炉処置も思うままに進まない中で、極めて大きな課題だ。

簡単ではないホルムズ海峡でのタンカー護衛
機雷除去参加の要請にどう応えるか?

 また、当面のもう一つの問題としては、原油価格高騰を抑える国際的協調だ。

 アメリカは、ホルムズ海峡封鎖への対応などで、同盟国である日本や韓国に対して直接または間接的な支援を要請してくる可能性が高い。トランプ大統領はホルムズ海峡でのタンカー護衛ではすでに日本の名前も上げて参加を求めており、機雷除去などの協力を求める可能性もある。

「安保ただ乗り」は許さないとする米国は、すでにイラン空爆に際し、NATO(北大西洋条約機構)や中東諸国に、軍事基地の使用を要請している。フランスやイタリアなど欧州諸国は、防衛目的に限定して米軍による自国軍事基地の使用を認めている。

 19日から訪米する高市早苗首相に対して、トランプ大統領が、単に価格高騰への協調だけでなく、同盟国としての覚悟を測る「請求書」を突きつける可能性は十分にある。日本は、こうした要求にどう対処すべきだろうか?

 ホルムズ海峡封鎖は、原油備蓄放出だけではすまない課題を日本に突きつけることになっている。

(一橋大学名誉教授 野口悠紀雄)