Photo:SOPA Images, Bloomberg/gettyimages
メード・イン・ジャパンのAIサーバーを作る――。台湾電機メーカーの鴻海(ホンハイ)精密工業と傘下のシャープが掲げた野心的なAIサーバー国産化構想に、半導体国策会社のラピダスが合流する見通しであることが、ダイヤモンド編集部の取材で明らかになった。さらに、この計画には補助金が投入され、国家プロジェクトへと昇格する見込みだ。世界のAI覇権競争で後れを取る日本にとって、この構想は起死回生の一手となるのか。特集『AI産業戦争 米中覇権に呑まれる日本』の#1では、AIサーバー国産化計画の全体像と、その裏にある日本側と鴻海側双方の思惑を解き明かす。(ダイヤモンド編集部 論説委員浅島亮子、村井令二)
日台の経済安保通が集った非公式晩餐会
AIサーバー国産化構想の要諦
2025年11月4日、東京都内にある老舗ホテルのフレンチレストラン。そこに、日本のAI(人工知能)国家戦略を左右する重要人物たちが顔をそろえた。
日本側の中心は、“経済安保のドン”として日本の半導体戦略を主導してきた甘利明・自民党元幹事長だ。甘利氏の一番弟子である小林鷹之・党政調会長(元経済安全保障担当相)、政調会長特別補佐を務める鈴木英敬衆議院議員らも同席した。
一方、台湾側からは鴻海(ホンハイ)精密工業の劉揚偉(ヤング・リウ)董事長(会長)を筆頭に複数の幹部が出席。さらに、鴻海傘下にあるシャープの沖津雅浩社長も席に加わった。
甘利氏と劉氏を中心とする日台メンバーの会食は、今回が2度目となる。すでに両者の距離は縮まっており、物腰が柔らかく穏やかな人柄で知られる劉氏の影響もあってか、会談は終始、和やかな雰囲気の中で進んだという。
もっとも、テーブルの上で交わされた議題は、穏やかではなかった。日本の経済安全保障が直面する危機を踏まえ、「AIサーバーの国産化計画」について踏み込んだ議論が交わされたのである。
この1年で、AI覇権を巡る世界の勢力図は大きく塗り替えられた。計算能力が国力を左右する時代に突入し、AIはもはや単なる成長産業ではなく、世界の産業秩序そのものを組み替える存在になりつつある。
その中で、日本は明らかに世界から後れを取っている。AIを本格的に機能させるには、高性能GPU(画像処理半導体)などのAIチップを核とする「半導体サプライチェーン」、膨大なデータを学習・運用する「AI基盤モデル」、それらを稼働させる「AIデータセンター」という3点セットが不可欠だ。しかし現状の日本は、AI活用で出遅れ、基盤モデルは海外勢に依存。世界的な争奪戦となっているGPU確保でも苦戦を強いられている。
こうした状況の中で、米中対立の激化とともに注目を集めているのが「ソブリンAI」という考え方だ。国家がAIの中核インフラ――、データ、計算能力、基盤モデル――を自国の管理下に置き、主権を確保しようとする発想である。
経済安保と産業競争力の両面から見て、日本はいま、危機的な立場にある。その打開策の一つとして、AIサプライチェーン戦略のど真ん中に浮上したのが、AIサーバーの国産化計画なのだ。
この構造の中核を担うのが、鴻海と、その傘下にあるシャープだ。掲げる旗印は明快だ。「メード・イン・ジャパンのAIサーバーを作る」――。
すでに鴻海は、三重県亀山市にあるシャープの亀山第2工場を買収する予定で、来年から日本国内でAIサーバーの製造を始める方針を表明している。将来的には亀山を国産AIサーバー製造の一大拠点とする計画で、かつてのシャープ堺工場で、現在はソフトバンクやKDDIがデータセンターとして活用している拠点にAIサーバーを供給するとみられる。
00年代にシャープの亀山工場は、液晶テレビのディスプレーから部品モジュール、完成品までを一貫生産する「世界の亀山モデル」として、国内製造業の成功事例に数えられた。今回目指すのは、そのAI版ともいえる構想だ。「国産AIサーバーで、再び世界の亀山をつくる」――野心的な挑戦が動きだした。
ダイヤモンド編集部が取材を進めたところ、このAIサーバー国産化計画に、AI半導体製造の国策会社・ラピダスが合流する方向で調整が進んでいることが分かった。さらにこの構想には、補助金が投下される見通しだ。
鴻海・シャープとラピダスは、どのような将来像を描いているのか。実は劉氏は、冒頭の会食と前後して、経済産業省の幹部とも面会している。その場で語られた内容には、この計画の核心が凝縮されていた。
ダイヤモンド編集部は、劉氏が経産省にプレゼンテーション資料で示した計画の中身を入手。次ページでは、その内容を手掛かりに、AIサーバー国産化計画の全体像と、このプロジェクトに込められた日本側・鴻海側双方の狙いをひもといていく。







