そんな工場に、高校を卒業してすぐに入社しました。正直に言うと、当時は働くのが嫌で嫌でしょうがなかった(笑)。品質管理中の熱気にはついていけないし、「トラブルが起きたら設備を再点検して」と言われても、機械音痴でマニュアルがないと何もできない。班長にもよく怒られていました。『次怒られたら辞める』と思いながら毎日過ごしていました。

 あるとき、またトラブルが起きました。すごい音がして『これは大事だな』と他人事のように思いながら、一応ルール通り再点検しようとマニュアルを探したんです。ところが見つからない。設備と設備の隙間に入り込んで、完全に隠れてしまっていた。これまでも何度かあったことだったので、さすがに苛立って——本来なら再点検すべき時間に、マニュアルの置き場所をああでもない、こうでもないと考え始めてしまったんです。

 そんなとき、工場長と目が合いました。大きなトラブルの最中だから気のせいだろうと思って横目で確認したら、目を吊り上げながらこっちに向かってくるじゃないですか。慌てて再点検を始めたんですが、その間もどんどん近づいてくる。ついに横に来たかと思ったら、大きな声で——

「それでいいんだ!」

 その場で褒めてくれただけじゃなく、翌朝の朝礼でも全員の前で『こういう小さいことからこそ、カイゼンは生まれるんだよ』と言ってくれた。この一言で、本当に救われました。こんな小さいことでいいなら、日頃から不満に感じていたことは山ほどありましたから」

自社らしさとはその会社特有の
「ものの見方・感じ方」

 このエピソードで注目すべきは、工場長の発言です。小さなカイゼン(の種)を見つけて、その場で承認したわけですが、なぜ、この工場長にはそれができたのでしょうか?

 1000人従業員がいる中のたった1人の行動、しかもトラブルが発生中の行動です。気づかずに通り過ぎても不思議でなく、気づいたとしても何も言わない、翌日に改めて褒める、あるいは「再点検をせずに何しているんだ」と咎めてもおかしくない場面です。

 それでもこの工場長がその瞬間に賞賛できたのは、確固たる自信があったからです。