高市首相の沈黙に対して、SNS上の反応では「情けない」「言い返すべきだった」といった批判的な意見も目立ちます。しかし筆者は、逆の感想を持ちました。「これは完璧な返答だ」と。ビジネスパーソン向けの英語コミュニケーションのケーススタディの教材としても、紹介したいレベルです。

「沈黙」こそが最高の返答
英語が得意なほど罠に陥る

 筆者は外交の専門家ではありませんが、エグゼクティブを含む英語コーチングのプロとして学んだこととして、外交の現場では何を言うかと同じくらい「何を言わないか」が重要だとされます。高市首相はトランプ氏のパールハーバー発言に対して、一切言葉を返していません。笑わず、怒らず、ただ次の話題に移りました。

 なぜこれが正解なのか。この場面には、少なくとも3つの選択肢がありました。

 苦笑いをすれば、「日本はパールハーバーを笑いのネタにされても許容した」という映像が世界に流れます。反論すれば、「日米首脳会談で高石首相がトランプ大統領と対立した」というニュースになります。そして沈黙すれば、この発言を「なかったこと」にして次に進むことができます。

 重要なのは、この3つの選択肢がそれぞれ異なるステークホルダー(利害関係者)に対して影響を持つということです。それは挙げるなら、日本国内の世論、トランプ氏個人との関係性、国際社会からの視線、そして今後の交渉余地――。高市首相の沈黙は、「全方向」において最もダメージが少ない選択だったと筆者は考えます。

 実は、英語が得意な人ほど、ある種の罠に陥りがちです。つまり言語能力があると、「何か言わなければ」という強迫観念が生まれます。

 しかしグローバルな交渉の場では、複数の影響を同時に計算した上で「あえて返答しない」という選択が、最も相手を動揺させず、自分の立場を守ることがあるのです。今回の高市首相の沈黙は、そのような観点で非常にいい実例だと思います。

高市首相は英語を「話せる」のに
なぜ通訳を使い続けたのか

 この会談で、高市首相は部分的にですが英語を話しています。通訳を介さずに、Thank you very muchやFor usといった合いの手の発言が、口から自然と出ています。どうやら英語の聞き取りはできていて、英語を全く話せないというわけではないのです。それでも次に挙げるような重要な発言は、全て通訳を介しました。なぜでしょうか。