「お金を返してください」
柳井正が意外な言葉をかけた納得の理由
柳井氏は、柚木氏の辞表を受け取らなかった。そして、彼にこう言ったという。
「26億円損して、勉強して、それで辞めますですか?まずはお金を返してください」
柚木氏は後年、この時のことをこう振り返っている。
「後になって思えば、柳井流の引き留め方だったと分かりました。もし温情を掛けられていたら、僕は絶対に辞めていたと思いますから。意表を突かれましたね」
柳井氏の引き留めは、決して温情からではない。むしろ、柳井流の徹底した合理思考から導かれる会社成長の法則、組織のマネジメント・メソッドである。
そもそも柳井氏の経営ポリシーは「1勝9敗」である。
柳井氏自身が、就活に失敗し、親の会社に戻ってきてからも失敗続きで、決して順風満帆な社会人人生ではなかった。だが、誰よりも失敗し、誰よりもそれを糧に学んできたと柳井氏は自負している。
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だからこそ、経営は1勝9敗、数多の失敗を積み重ね、そこから学びを得て、一つの成功をつかみ取る。
柚木氏の事業の失敗もまた、柳井氏の目から見れば成功への必要な一歩だった。柚木氏の能力が取り立てて秀でていることは、柳井氏の目に明らかだった。
しかも彼は失敗を恐れず挑戦できる人材で、事業を1から立ち上げ、失敗という経験を積んだ。これほどの人材は、社内外見渡してもそういるわけではない。
柚木氏は次のチャレンジには、これまでとは一段違った心技体で臨むだろう。自分の、前回の失敗を取り戻すために。26億円の投資は、その何十倍、何百倍にもなって、返ってくる。
柚木氏の人事には、柳井氏の経営のエッセンスが詰まっている。







