子どもたちの「思考力」をいかに伸ばすかは、多くの親にとって最大の関心事だ。特別なドリルや難問を解かせることが近道だと思われがちだが、中学受験専門のプロ家庭教師であり『中学受験必勝ノート術』の著書もある安浪京子先生は、「何はなくとも家庭での会話だ」と語る。本記事では、安浪先生と、言語化の専門家で『こども言語化大全』の著者である山口拓朗先生の対談を通じ、今日から家庭で実践できる「思考力を育てる日常の習慣」を余すところなくお届けする。親の「発問」で日常の体験を言葉にする会話術から、算数が得意な子が陥りやすい意外な落とし穴まで、必読の内容だ。(構成 森本裕美)
『こども言語化大全』の著者・山口拓朗氏(左)と『中学受験必勝ノート術』の著者・安浪京子氏(右)
中学受験家庭から一番聞かれる「思考力の鍛え方」
山口拓朗(以下、山口):安浪先生は日々多くの受験生や親御さんと最前線で接していらっしゃいますが、親御さんから寄せられる相談で一番多いのはどのような内容ですか?
安浪京子(以下、安浪):中学受験の親御さんからよくご相談いただくのは、「子どもの思考力を鍛えるためにはどうしたらいいですか?」ということです。皆さん、難しいテキストをやらせたり、特別な思考力対策の講座を受けさせたりする必要があると思っていらっしゃるんですが、私はいつも「何はなくとも家庭での会話ですよ」とお答えしています。
山口:家庭での日常会話が、思考力の土台になるんですね。
安浪:おっしゃる通りです。家庭での会話を通じた思考力の育成は、探究学習とよく似ているんです。子ども自身に深く考えさせ、物事を具体化していくプロセスを経るからです。そこでカギを握るのが、親の「発問力」なんですよね。
親の「発問力」で日常の体験を言語化させる
山口:親の発問力とは、具体的にどういうことでしょうか。
安浪:日常の出来事を深く聞いていくということです。例えば、私は教え子によく「今日、給食何だった?」と聞くんですが、なんと半分以上の子が「忘れた」と言って言葉にできないんですよ。
山口:日常の自分自身の出来事すら覚えていないし、言葉にできないんですね。
安浪:ええ。思い出したとしてもせいぜい「魚」としか言えません。当然今の子たちは魚の種類も分からないし、「白身魚か青魚だったか」も、「焼いてあったか、煮てあったか」もよく分かっていない。
山口:そこで会話を「ふーん、そうなんだ」で終わらせてはいけないということですね。
安浪:そうです。親が具体的な質問をして引き出してあげることで、子どもは自分の記憶をたどり、解像度を上げていきます。そして最終的に「今日はサバの塩焼きだった」と具体的に言語化できる子は、物事をきちんと分かった状態だと言えます。親の発問によって、日常の体験を自分の言葉で明確にするプロセスこそが、思考力を育んでいく土台になります。
出来事や感情を細分化し、論理的に整理する
山口:自分の気持ちに気づくのも言葉ですよね。今は小学生でもメンタルを病んでしまう子がいると聞きますが、「言語化力」と関係しているのでしょうか。
安浪:すごくあると思います。学校で何か嫌なことがあって、机に向かっても気分が乗らない場合、自分がなんで不機嫌なのかを言語化できない子は、親と衝突しやすくなります。親からすると単に「勉強をサボっている」「やる気がない」ようにしか見えませんから。
山口:モヤモヤするだけで、うまく言葉にできないんですね。
安浪:そうなんです。子どもも「なんかイライラするな」っていう感情はあるんですよ。だけど、感情の前には必ず「行動」や「出来事」がありますよね。だからそこを言語化できるようになることが大事です。そうすると親子の衝突は減りますし、子どもも気持ちが落ち着きやすくなると思います。
山口:なるほど。ここでもやはり、親の発問力が問われそうですね。
安浪:その通りです。一番シンプルな問いは、「今日は学校でどんなことがあったの?」です。ただ、子どもは話があちこち飛んでしまうので、「最初に誰がなんて言ったの?」「結局何が一番嫌だったの?」と、整理しながら聞いてあげることが大切です。そうすると「あ、こういうことがあったから、こう思ったんだね」と、こちらも分かりますし、子ども自身も、今の自分の感情は何が原因で生じているのか気づきやすくなります。
山口:言葉で具体化して分解していくんですね。
安浪:実は勉強も全く同じアプローチです。受験算数には「平面図形」や「速さ」など分野が7つあるんですが、「算数が大嫌い!」と言う子には、算数の7つの分野を見せます。そして「じゃあ、この中でマシなのはどれ?」「好きじゃないのはどれ?」と細分化して聞いていきます。そうすると「これはキライだけどこれはマシ」と優劣を答えてくれるので「じゃあ算数が全部嫌いなわけじゃないね」となって、本人もそのことに気づけるんです。



