スカウトの世界も様変わりしました。何度も試合に足を運び、投手のボールのキレや変化球の曲がりといった、言葉にしがたい感覚を頼りに原石を発掘してきた時代から、ボールの伸びや変化量をミリ単位で計測し、AIが1つひとつの球種に「点数」をつける時代へ。

「AIの限界」を超える
「センス」が決定的な差を生む

 しかし、どれだけデータが進化しようとも、スポーツをプレーするのは心を持った人間である以上、AIの思惑通りにはいきません。スポーツには「まさか」が付きものであり、データ上は圧倒的に優位なはずの投手が、いとも簡単にホームランを打たれることだってあります。理論上、最も効率的とされる「解」通りのピッチングフォームで投げているはずなのに、なぜか球速が出ない。そんなことは当たり前の世界です。

 また、AIとて万能ではなく、人間の心の動きまでは、まだ読めないのです。AI上の評価では高得点を叩き出すボールを持っていても、マウンドに立った途端、ストライクが入らなくなってしまう場合もあります。一度不調に陥ると、暗いトンネルから抜け出せなくなってしまうこともあります。これらは心理状態が大きく影響している可能性が高く、データだけでは到底測り得ないものです。まさにこれがAIの限界であり、我々人間の「センス」が問われる領域なのだと思います。

 膨大なデータ量、情報処理能力では、もはや僕たちがAIに勝てるわけがありません。これからの時代に求められるのは、そうした情報量や分析能力よりも、AIにはないもの。「データ上はこうなるはず。けれども、どうやら現実はそうならないことも多いらしい」という現象にいかに対応するか。そのセンスが、決定的な差を生むのではないでしょうか。

ロボットに真似できない領域こそ
人間のセンスが光る

 メジャーに来て一度、2週間ほど原因不明の体調不良に苦しんだ時期がありました。どんな薬を飲んでも、身体の怠さが全く消えないのです。これまでとは明らかに違う。ベテランのドクターに診てもらい、30分ほどかけて丁寧に問診をしてもらった後、彼はふと、ひらめいたように「もしかしたらこの薬が効くかもしれない」と言いました。