24時間365日戦う肝がん手術の世界的名医の素顔写真はイメージです Photo:PIXTA

現役外科医の筆者は学生時代、肝臓手術の世界的権威・幕内雅敏氏の手術ビデオを見て「神の手だ」と感動する。手術の見学を志願したところ、幕内氏の親切なレクチャーと熱意に心酔し師事を決意。やがて筆者もこの道のオーソリティーとなっていく。当時、幕内氏の手術がいかに異次元だったかを述懐する。※本稿は、石沢武彰『変革する手術「神の手」から「無侵襲」へ』(KADOKAWA)の一部を抜粋・編集したものです。

神の手を持つ外科医と弟子たちは
24時間365日働いていた

 学生にはあんなにジェントルマンだった「神の手」幕内雅敏先生(東京大学肝胆膵、人工臓器・移植外科教授、当時)だが、いったん入局すると、部下へのリクエストには遠慮も容赦も一切なかった。

「手術したすべての患者を必ず生きて退院させる」ことを目標とし、本気で実践していたからだ。

 患者の病態には土日もGWも年末年始も関係なく、深夜だろうと急変しうるのだから、担当医は入院から退院まで常にマンツーマンで診療すべきである――。この「24時間365日」というモットーは医局の代名詞になり、NHKの番組で彼の流儀として紹介されると、他大学の学生や研修医にも広まった。「外科医になると1日も休めなくてヤバいらしいよ!」と、若者を手術から遠ざける新たなレッテルになっていたかもしれない。

 料理の世界では、昔はシェフがレシピを教えてくれることはなく、若手はフライパンに残るソースをこっそり舐めて味を盗むしかなかった。そうはさせまいと、先輩はすぐに洗剤を入れてしまう――そんな話を聞いたことがある。

 我々の外科界では、この手の意地悪を経験したことはない。生身の人間を相手にするこの業界、患者に不利益を生じる足の引っ張り合いは許されないからだ。