つまり、肝臓は見た目には一塊の臓器だが、内部は門脈の枝ぶりに従って8個の「房」に分離できる、ということだ。
ブロッコリーでいうところの黄緑色の茎の中に門脈が走り、肝臓がんは「緑色のモコモコの部分」に発生する、と考えて良いだろう。
発泡スチロールを砕くように
肝臓をサクサクと割る
さて、幕内先生は座ってオペをするスタイルなので、背中越しに術野がとてもよく見えた。超音波のプローブを直接肝臓に当てると、彼の言うタマ(がん)と、それに向かう門脈の枝ぶりがモニターに映し出される。
彼の脳内には最上位のGPU(画像処理プロセッサ)が搭載されており、超音波の2D像を滑らかに連続させ、不透明な肝臓の内部構造を3Dで瞬時に浮かび上がらせることができるに違いない。
鍼師の正確さで肝内の門脈を刺し、インジゴカルミンという青い色素を注入すると、がんを含む肝区域だけ藍色に染まる。
すかさず、その染色の境界に電気メスでマークを付け、がんを養う血管の根元に向けて肝臓をサクサクと「割る」。この感触はなんとも形容しがたいが、例えば、発泡スチロールを指で潰して砕いていくようなイメージだろうか。実際、指で肝臓を割っていた時代もあるらしい。
割り面に出現する血管は縛ってから切っていくのだが、幕内先生は肝区域の境界、つまりブロッコリーの房と房との境目に正確に進入できるので血管が少なく、先輩曰く「モーゼが海を渡るように」肝臓が自然に開いていく。
必然的に速く、出血もない。根元の血管を切り離し、がんを含む領域を摘出すると、肝区域の境界を走る静脈がガイコツのように露出する。まるでサンマをきれいに食べた時のような爽快感を覚えたものだ。
美しい肝切除は
患者を長生きさせる
SNSやネットニュース界隈では「美しすぎる○○」という紹介のしかたがまだ流行っているようだが、これが、当時の僕たちが激熱フォローしていた「美しすぎる肝切除」である。
『変革する手術「神の手」から「無侵襲」へ』(石沢武彰、KADOKAWA)
決して単なるルッキズムではない。肝切除の出来上がりが「きれい」であることは、手術後のトラブルが少ないことを保証してくれるからだ。
例えば、止血のために肝臓の組織を焼いて黒焦げにしたり、虚血を生じて紫色に変色させていたりすると、その部分で肝臓の再生が阻害され、手術後の肝機能に影響が出てしまう。切り口のどこかが黄色ければ、そこに胆汁の漏れがある、ということだ。
肝臓全体が赤ピンク色に輝く美しい肝切除は、最も重視すべき手術の「ココロ」、つまりがんの予後を良くすることにもつながる。
特に肝細胞がんという腫瘍は門脈の「枝ぶり」に沿って広がる性質があるので、タマだけを「くり抜く」よりも、それを含む肝区域を「根こそぎ」、つまりブロッコリーの房ごと切除した方が再発が少なく、患者の長生きにつながるのだ。







