米国には「内分泌外科」というジャンルもあり、彼はその専門医として首の甲状腺の手術もするし、お腹の深いところにある膵臓も切除する。

 マイクは、「自家蛍光(薬剤を使わず、組織が自ら発する蛍光)」を使って小さな副甲状腺を光らせ、確実に温存するテクニックを披露してくれた(誤って切除してしまうと、血中のカルシウムが急に低下して痙攣することがある)。

 また、アメリカには「定期的に外部の教授を招聘してレクチャーを聴く」大学間交流の文化があった。

 僕は、マイクの計らいで身分不相応な「ゲスト・プロフェッサー」の栄誉に与り、立派な講堂で思う存分、蛍光ガイド手術開発の歴史と「がん研(編集部注/筆者が勤務していた、がん研有明病院)スタイル」の手術法をプレゼンした。

 かなり目新しいテーマだったのだろう、講演後に教授室に呼ばれると、痛いくらい力強い握手の後で記念品を手渡された。大学のロゴが刻まれた、厚い木製のコースター、6人用セット。しかも立派なケースに収納されている……出張第1週の僕には「重すぎる」お土産を頂戴した。

宗教観の違いか...
ボランティアによる臓器提供

 次は、メインホストのコロラド大学。遠くに雄大なロッキー山脈を望み、砂漠のような街は猛烈に乾燥している。美肌男子の対極にいる無頓着な僕も、さすがにホテルのボディクリームを顔面に塗りたくって病院に向かった。

 ここでも、レクチャーやディナーパーティーが用意され、人肌の情報交換をすることができた。中でも印象的だったのは、次の2つの手術だ。

 まず、肝臓から心臓につながる下大静脈を丸ごと人工血管に取り換えて、巨大ながんを切除した手術。話には聞いていたオペだが、日本では人工血管が感染することを懸念してあまり行われない。ナマで見るノウハウは、机上では学ぶことができない。

 もうひとつは、肝移植ドナーの手術。お腹の左側を斜めに走る古創に気づいた僕は、「このドナーは昔、左の腎臓か何かの手術を受けているんですか?」と質問した。

 もしそれががんの手術だったら、ドナーの肝臓に潜伏しているがん細胞が、その「もらい手(レシピエント)」の体内に入り、移植後に再発することがあるからだ。