まず現実を直視しなければなりません。今のところ、日本からアメリカに向けて、継続的かつ大量に農産物を輸出できている事例はごくわずかです。和牛や一部の高級果実、日本酒などが例外的に成功しているものの、量は極めて限定的で、農業全体に波及するようなインパクトはありません。特に青果物については、衛生基準や検疫、輸送コスト、消費者の嗜好の壁などが存在し、簡単には越えられないハードルが多数あります。
だからといって「どうせ無理」と考えるのは早計すぎます。現に、私たちの農園にも、有名シェフやレストラン関係者から野菜についての問い合わせが何度も来ています。これは偶然ではありません。高品質な日本産農産物への評価は確実に存在します。問題は、それをどう届けるか。そのための制度とインフラが整っていないという点にあります。
アメリカでは近年、健康志向の高まりとともに、オーガニックや無農薬、あるいはファーム・トゥ・テーブルといった形で、食材への関心が高まっています。そこに対して、日本の農家が提供できる価値は決して小さくありません。細かな管理、丁寧な生産、美しい見た目と日持ちの良さ。これらは、マーケティング次第で十分に競争力のある武器となります。
ただし、それを実現するには、本気で輸出を見据えた「モノ作り」と「売り方」の再設計が必要です。単に余った野菜を輸出すれば良いという発想ではダメです。アメリカという巨大市場に対して、何を、誰に、どう売るのか。その戦略がなければ、いくら関税がゼロになっても輸出は広がりません。
私は、対米輸出を「夢物語」だとは思っていません。むしろ、必然の流れだと思っています。日本国内の需要は今後も減り続けます。高齢化と人口減少が進む中で、内需だけに依存して農業を維持することは不可能です。となれば、外へ出るしかない。そして、世界最大の消費市場の一つであるアメリカは、どう考えても狙うべき対象です。
日本を象徴するコメの輸出こそ
和食ブームの需要にマッチする
中でも一番のチャンスはコメです。コメは日本の農業の象徴であり、国内市場では縮小が続く一方で、海外では和食ブームを背景に着実な需要があります。
特にアメリカの中・高所得層では、品質や生産の背景を重視して高価格でも納得できる商品が選ばれる傾向があり、日本産米はその条件を満たす数少ない農産物の一つです。関税が撤廃されれば、その潜在需要に真正面から挑むことが可能になります。







