農園写真はイメージです Photo:PIXTA

兵庫県淡路島を拠点に自然農法の実践に取り組む筆者。一般的な貸し農園では割り当てられたエリアで自分の作物を育てるのみで完結するが、彼の農園では、参加者同士でノウハウや考えをシェアするのだという。助け合いと成長を促す「ファームシャングリラ」構想の真髄に迫る。※本稿は、山岸 暢『ファームシャングリラ 農業で叶える人と自然が共生する未来』(幻冬舎メディアコンサルティング)の一部を抜粋・編集したものです。

農業を通じて
幸せな社会の実現を目指す

 人類がこれからの目指すべき生き方を具現化する活動を、私は「ファームシャングリラ」と名付けています。シャングリラとはユートピアとも呼ばれ、一般的には理想郷と同じ意味です。語源は作家ジェームズ・ヒルトンが、1933年に出版した『失われた地平線』という長編小説に描写されるチベット山中の理想郷に由来します。平和への願いを込めて名付けられたため、「シャングリラ=平和の象徴」として広まりました。

 私はファームシャングリラで「みんなのしあわせがわたしのしあわせ」をモットーに、農業を通じて幸せな社会を実現していくことを目指しています。具体的には、農地での活動を通じて、それぞれの個人が得た知識や経験を共有し、互いに学び合う場を築いていくことを重要視しています。

 私たちの目的は、単にコミュニティを形成することだけではありません。私たちは、農業を通じて人々がともに成長し、互いに支え合い、幸せな生活を創り出す社会の実現を目指しています。農業の実践を通じて、知識や経験を共有し、互いに助け合いながら、より持続可能で豊かな暮らしを築いていくことが私たちの目標です。

 ファームシャングリラ構想の初期段階では、「地球にやさしく、みんなでみんなの命輝く安全な野菜を育てる」を基本コンセプトとして、1つの農園で参加者全員が野菜を育てる方法を打ち立てていました。従来の貸し農園(レンタル農園)のような自分の農地エリアと他人の農地エリアとの境界を、あえて引かないという考え方です。

 貸し農園では、自分の場所で自分の野菜を育てるという方法で完結しますが、裏を返せば隣も向かいも、自分のところ以外は関係ないという世界が生まれていきます。仮に大雨の被害で畑がやられてしまったとしたら、自分が回復作業をするのはきっと自分の畑だけでいいことになり、他人の畑の面倒も見ることまで考えの及ぶ人は少ないと思います。