物語の途中であえて挟まれる“講義”には意味がある。私たちがこれから足を踏み入れる“カルテルのロジック”は、複雑で、理不尽で、しかし構造的だ。だからこそ、ここで知識を詰め込むことで、整理しておかなければいけない。

 そんなわけで、ガブリエル教授による「麻薬カルテルとは何か」の特別授業が、エンジン音をBGMに静かに始まった。

かつて麻薬の密輸ルートを
構築していた三勢力

「まずは物流の話からだ」

 ガブリエルがそう切り出すと、助手席の背もたれが少し軋んだ。外はカリブの強い日差し、車内には密輸ルートの地図が広がり始める。

「ドラッグは、まずパナマから入ってくる。目的地はマイアミだ。カリブ海側のルートでは、チェトマルまで“スピードボート”のような高速船で運ばれてくる。スピード重視の小規模高精度輸送だ」

 一方で太平洋ルートもある。

「オアハカに着いたドラッグはミチョアカンやハリスコを経由し、陸路や空路で北へ向かう。ゲレロに着いたブツはメキシコシティに入って、そこから先、北米方面へ。複数のルートが混在しているが、すべてはアメリカを目指している。目的は明確だ――“消費地”へ送り込むこと」

 地図の上を指でなぞりながら、ガブリエルは語る。

「ここから先は歴史の話だ。覚えておいたほうがいい」

 かつて、パブロ・エスコバルがコロンビアからコカインを空輸していた。その受け取りを担っていたのが、メキシコの“空の帝王”――アマド・カリージョ・フエンテスだった。

「アマドは航空機でブツをばらまいた。彼が空を制した一方で、地上を仕切っていたのがチャポだ。ホアキン・“エル・チャポ”・グスマン」

 そしてもうひとつの拠点、ティファナを押さえていたのが、アレリャーノ・フェリックス兄弟。

 この三勢力が時代をつくり、のちのカルテル構造を作っていった。

 だが、今はもう過去の地図では通用しない。

 ガブリエルは少し声を低くして、こう言った。

「今は、誰と話すかで生死が分かれる時代だ」

「“誰に話したか”だけで死ぬ」
メキシコ“言論空間”の現実

 ハリスコ新世代カルテル(CJNG)は、チャポの息子と手を組んで、フェンタニルをアメリカへ送り込んでいる。今やメキシコは製造拠点だ。