つまり、メキシコは生産国ではなく“中継加工拠点”なのだ。

 価格の比較も興味深い。

 メキシコでのコカインは1グラム10~15ドル、パナマでは5~10ドル。

「途中で“混ぜて増やして”、なおかつ“値段も上げる”。これがカルテルにとっての黄金パターンなんだよ」

 ここからが本題、とばかりに話題は今の主力商品に移る。

「フェンタニルとメタンフェタミンが今のメキシコを支配している」

 フェンタニルは1グラム1~2ドル。

 致死量はわずか2ミリグラム前後。文字通り“安くて死ねる”ドラッグだ。

 メタンフェタミンは一回分(ロック)で50ペソ=約2ドル。

「安い・強い・大量に作れる。この三拍子が揃ってる。現代のカルテルはここで金を稼いでる」

 一方で、マリファナはもう主役じゃない。

「医療用としての合法化が進んでるから、今後は主要商品から外れるだろうな」

 最後に、彼は少し語気を落として、こう言った。

「新しい波も来てる。トゥーシー。通称“ピンクコカイン”。今はまだ流通量が少ないが、コロンビアからメキシコ経由でアメリカに入っている。名前と色の派手さだけで流行る可能性がある。目を離さない方がいい」

 ガブリエルはそこで言葉を切った。

 すべてを語ることはなかったが、最低限の構造ははっきりした。

「これが今、メキシコで流れてる“商品の中身”だ」

 それを知ることが、次の行き先で何を見て、何を疑うべきかの判断材料になる。

 ガブリエルの講義は、実地のための“下準備”だった。

「麻薬王」の
世代交代劇

「今もパブロ・エスコバルのような麻薬王っているのか?」

 そう尋ねると、ガブリエルは少しだけ笑って首を横に振った。

「今いるのはメンチュ(エル・メンチョ)だが、規模でいえばパブロには遠く及ばない。パブロは別格だ」

 そして、静かに語り始めた。

「パブロ・エスコバルがどれだけ異質だったか。それは、“コロンビアからパナマを経由してアメリカまで、麻薬をすべて自力で運べた”という点に尽きる」

 ガブリエルの声が少し熱を帯びていた。

「当時、キューバ経由のルートもあったが、それはすぐ潰れた。そこでパブロが選んだのがメキシコ経由だ。そして、ここが重要なんだが――そのときのメキシコは、まだ“マリファナ屋”だった」