総予測2026Photo:PIXTA

トランプ関税と米中対立に翻弄された2025年の新興国経済。米中対立の“先送り”は輸出依存度が高い新興国には追い風だ。特集『総予測2026』の本稿では、インドやブラジル、メキシコなど注目の新興国の先行きや、米中対立の“次の舞台”の候補となりそうな地域について展望する。(第一生命経済研究所 経済調査部主席エコノミスト 西濵 徹)

米中摩擦「先送り」は新興国経済に明るい材料
アジア新興国の懸念は中国「デフレ輸出」圧力

 2025年の新興国経済は、トランプ関税と米中対立に翻弄された。米中摩擦は、米中首脳会談を経て実質的に「先送り」され、当面は事態が沈静化するとみられる。

 本質的な米中摩擦の火種は残るものの、表層的な事態緩和は、世界経済の分断による萎縮が懸念された世界貿易を押し上げると見込まれる(下図参照)。輸出依存度が高い新興国への追い風となり、26年の新興国経済にとって明るい材料となると期待される。

 地理的に中国に近いASEAN(東南アジア諸国連合)をはじめとするアジア新興国にとって、ここ数年の米中摩擦や世界的なサプライチェーンの見直しの動きは追い風だった。そしてトランプ関税もその流れを後押しした。

 しかし、米中首脳会談を経て、米国は中国に対する合成麻薬フェンタニル問題を理由とする追加関税を一部引き下げた。その結果、中国に課す関税は20%とASEAN主要国(19~20%)と同水準となり、関税による輸出競争力への影響は小さくなっている。

 またここ数年、中国による迂回輸出はアジア新興国の輸出を押し上げた。だが米国はアジア新興国との通商合意に迂回輸出への取り組み強化を義務付けており、今後は期待しにくくなる。

 一方、今後は中国の過剰供給を背景とする「デフレの輸出」の圧力にさらされるリスクは高まり、製造業を取り巻く環境は一層厳しくなる点には注意が必要である。

次ページでは、インドやブラジル、メキシコなど注目新興国の26年の予測や、米中対立の“次の舞台”の候補となり得る地域について展望する。