そもそも東レのような素材メーカーはいわゆるB2Bの取引構造になっています。顧客は自動車メーカーなど大手製造業が多く、従来は一年契約などの長期契約での値決め文化の中で取引が行われてきました。
化学メーカーにとっての最大コストである原油やナフサの価格は国際市況で決まるにもかかわらず、価格はすぐには上げられないというのがこれまでの基本構造です。
しかも東レが提供する製品は顧客の製造業各社にとってサプライチェーン上の重要素材ばかりです。イラン情勢によって調達不安が顕在化したタイミングでも、使命としてサプライチェーンを止めることはできません。止まると日本経済が止まってしまうからです。
この構造から、これまで原油価格の高騰リスクは基本的に東レなど素材メーカーが引き受けてきました。リスクを引き受けるといっても自社努力では吸収できないわけで、要するに最終的には株主がそのリスクを負ってきたわけです。
直近ではイラン情勢で原油やナフサの供給自体が混迷を増しています。これまでもウクライナ侵攻やコロナショックなどで原油相場が大きく動いたことは何度もあったのですが、今回は事態が長期化することでより規模の大きなリスクが発生する可能性がありました。
そこでサーチャージを導入することで、リスクをサプライチェーンの川下に応分に負担してもらうことを東レが企てたということです。
これが実現することで値決めが「交渉」から「ルール」に変わりますから、素材メーカーは原料高騰でも利益を一定レベルで守ることができるようになります。
しかし、ことはそれほど単純ではありません。
顧客である大手自動車メーカーや電子機器メーカーなどがその条件を呑んでくれなければ新制度は導入できないのです。
それが実現したのは冒頭のニュースで書かれていたように「樹脂や炭素繊維などの一部製品について」という条件です。
ひとことで言うと東レが競合する化学メーカーに対して優位性を持ち、結果として大きな市場シェアを持っている製品について「サーチャージを導入する」という戦略なのです。
東レの炭素繊維は他社製品では替えがきかないため、たとえボーイングが取引先だったとしてもその条件を呑まざるをえないわけです。
そこで考えるべきはこの新制度が経済にどう波及するかです。







