製造業のサプライチェーンがグローバル化し、そのことで地政学的リスクが高まってきたというのがここ数年の経済界全体の認識です。

 リスク構造が変わった以上はリスク分担の仕組みも変える必要がある。ここが今回の制度が受け入れられるようになった産業界の意識変化のポイントです。

 今回の東レの発表を受けて、すでにサーチャージ制を検討してきたさまざまな素材メーカーが同様の動きにシフトするでしょう。住友化学や三菱ケミカルなどが続いて動くことになると予測されますが、その際に最初に導入されるのは東レの炭素繊維同様にシェアと優位性が高い分野からです。

 B2Bの取引構造の中で、サーチャージを通しやすいのは、取引先からみてニッチで代替が効かない素材分野から始まります。たとえば信越化学やJSRといったグローバルニッチの素材メーカーは早期に東レと同様の動きを見せることが考えられます。

 すると次に何が起きるかというと、それら大手素材メーカーほど競争力がない競合他社も一斉にサーチャージ導入に追随します。最大手が導入してくれたことで導入しやすくなるという面と、導入しなければ市況の急騰リスクで自社だけが傾いてしまうかもしれないというふたつの側面から、必ずそう動きます。

 直近ではイラン情勢があと1カ月程度で落ち着く可能性が出てきました。その場合は一部の素材メーカーが主力製品にだけ導入という形でサーチャージ導入の動きが収まる可能性はもちろんあります。

 しかし今回の混迷が長期化したり、ないしは別の紛争が勃発したりした場合は、いずれ、サーチャージ制は化学素材メーカーのスタンダードな取引手法として注目されるようになるでしょう。

 さて、この結果、経済ではどのようなことが起きるのでしょうか?

「素材サーチャージ」が普及したら?
あまりに大きすぎる経済損失

 リスクがうまく価格転嫁できて製造業が安心ということにはなりません。ひずみが起きるのです。

 素材メーカーが主要な工業製品について原材料費の高騰に応じた価格転嫁をしたとします。そのコストはサプライチェーンの中でつぎつぎと取引先にわたり、最終的には私たち消費者が購入する商品へとパスされるとします。