石井先生自身も、ヨガをずっと続けていました。

(ヨガをすると自分の心も体も元気になり、手術も外来も全くつかれない。研究にもはずみがつき、ひらめきもある。ぼくにとってヨガはストレスを減らして、心身をリセットする大切な時間なんだ)

 そう思っていました。

 でも石井先生のもとを訪れる多くの患者さんは、自分がかかえるストレスの大きさに気づかず、自律神経のバランスをくずして病気になってしまいます。そこで石井先生は、だれもが見てわかるふたつのストレスサインを見つけました。

慢性的なストレスを抱える人の
眉間を見てみると……

 ひとつめは「ベートーベンのシワサイン」。みなさんもベートーベンの顔を教科書や絵画などで見たことがあるでしょう。みけんにシワがありますよね。精神神経科の世界では慢性的にストレスのかかっている人やうつ病の人には、みけんにシワができていることが多いということが知られています。

 理由は、ストレス過多になると脳の広範囲に構築されている自律神経のネットワーク(CAN)が興奮し、それにともなって脳の青斑核という場所が反応するからです。ここがシワを寄せる筋肉と密接な関係があるため、みけんのシワが深くなると考えられています。

 以前はみけんのシワのことを、うつ病とみけんのシワの関係を発見した医師の名前をとって「フェラグートのシワ」と呼んでいたこともありますが、石井先生はベートーベンのほうがわかりやすいかと思い、そう名づけてカルテにも書いているのです。

 ちなみにベートーベンも20代後半から両側の耳が聞こえにくくなり、30代で症状が進行して重度の難聴に、40歳ごろには全聾になったといわれています。作曲家でありながら音がほとんど聞こえないという大きなストレスが、みけんのシワにつながったのかもしれませんね。

 ですから石井先生は診察室に入ってきた患者さんの顔、とりわけみけんをまず観察します。

「耳鳴りがうるさい」という症状で受診したある中年の男性も、ベートーベンのシワサインがはっきり出ていました。問診をしている時も、検査が終わってその結果を説明している時も、ずっとそのシワサインが出ています。

 そしてすべての診察が終了したタイミングで、石井先生は自分のみけんを指しながらたずねました。

「失礼ですが、ここのシワについてだれかに指摘されたことはありませんか」