すると、その男性は「あぁよく言われます」とうなずくのです。石井先生はこう説明しました。

「ここのシワは脳にものすごく不安があって、体が緊張し、ストレスを感じている時に出るサインなんですよ。このシワが出ていると、耳鳴りは強くなります」

「そうなんですか」

 男性はおどろき、その後に石井先生が話した「自律神経のバランスをとる大切さ」に真剣に耳をかたむけました。

不安でいっぱいの人が
やりがちな行動

 もうひとつのサインは「刑事コロンボ現象」です。

 石井先生は小学生のころ、アメリカで制作・放送され、日本でも大ヒットした連続推理ドラマ『刑事コロンボ』を家族で見ていました。主人公のコロンボは、いったんは容疑者に聞きこみを終えて帰ろうとするのですが、「すみません、もうひとつだけ」と言ってまたもどってきます。それを何度もくり返すのです。

 彼らと同じような行動をとる患者さんがいるそうです。

 診察が終わり、「ありがとうございました」といって帰りかけます。そして石井先生が次の患者さんを呼ぼうとすると、ドアを出る間際に「そういえば先生、これはどうなんでしょう」とまたもどってきて質問をします。それを何回もくり返して、なかなか帰ろうとしません。

(心の中が不安でいっぱいなんだなぁ)

 石井先生はそういう患者さんを見ると、「刑事コロンボ現象」とカルテに書きこみます。また、刑事コロンボ現象の人には、ベートーベンのシワサインも出ていることが多いのです。

 ほかにも心の中が不安でいっぱいだと相手の発言を「でも」「できません」とすぐに否定したり、かたでハ~ッとため息をついたりするという現象も起きると、石井先生は考えます。

(ストレスがかかると自律神経のネットワークが興奮して交感神経が働き、体が緊張モードになって硬くなり、呼吸は浅く速くなる。だから不安やなやみをかかえている時は、かた呼吸になっていることが多いんだ。でもそれが長くなると息苦しくなるから、体はそれを緩和しようとして、ときどきかたを上げて深い呼吸をする。かたのため息が出る人は要注意だな)

 じつは石井先生がいる「耳鼻咽喉(いんこう)科」は五感をあつかう科。聴覚、嗅覚、味覚はもちろん、触覚であるバランス機能も関係しますし、鼻の病気から目に炎症がおよぶと、目が見えなくなってしまうので視覚にも影響するのです。

 五感は耳鼻咽喉科のはんちゅうだからこそ診察を通して、患者さんのストレスを日々感じるのです。患者さんのストレスのもとに早く気づき、何とか薬に頼らずに病気を悪化させないようにしたいと石井先生は奮闘しています。