ファンはどうしてもケンカマッチをプロレスラーがリング上で行うケンカだと思ってしまうが、佐山いわく、多くのケンカマッチと呼ばれるものは、お互いが意地を張ってカタくなった試合であり、ケンカやプロレスにおける「シュート」とはまったくの別物だという。

「プロレスラー同士でも本当のケンカだったり、ましてやシュートだったら、もうルール無用ですから。まず目を突くでしょうし、耳でも鼻でも指でも噛みちぎるでしょうし、海外だったら控室に戻ったあとでナイフや拳銃が出てくるかもしれない。殺るか殺られるかなんで、遠慮なしですよ。

 でも、いわゆるケンカマッチだったらそこまでいかないので、言わば“寸止め”です。本当のケンカになる前に、プロレスの範囲内で制する強さが必要なんです。だから僕は『プロレスラーは刀を持っていなくてはいけない。でも、その刀を抜いてはいけない』と言うんです」

小川直也が橋本真也にやった
“やってはいけないこと”

 新日本における最後の伝説的なケンカマッチといえば、99年1月4日、東京ドームで行われた橋本真也vs小川直也の一戦、通称「1・4事変」だろう。

 この試合で小川のセコンドについた佐山は、小川がケンカマッチの一線を越えてしまったことが問題だったと語る。

「あの時、事前に考えていたことは、相手の技を受けずに“ナチュラル”でいこうということです。本来のストロングスタイルに戻すということですね。

 なぜかというと、当時のオーちゃん(小川直也のあだ名)はまだキャリアが浅かったから、橋本選手にかぎらず、いろいろな選手とやる時、プロレス業界では先輩の対戦相手が試合を主導する展開になってしまうことも多い状況だったので、オーちゃんとしては面白くない、やってられない、と。

 僕らの時代の新日本はそういう世界ではなく、プロレスとして最低限の着地点だけは想定していましたけれど、あとはナチュラルでした。オーちゃんもプロレスはそういうもの(ナチュラルが基本)だと猪木さんに教わってるから、そうやりたいんですけど、橋本選手は先輩だから試合の主導権はオーちゃんではなく、橋本選手が握ってしまう。

 そうすると緊張感ある試合にはならないですから、それを打破したいと。それならば、いちばんいい方法は、ナチュラルに徹して、なあなあな試合にはさせないということでした。

 ところがオーちゃんは、倒れてうつ伏せになった橋本選手の顔面を蹴っ飛ばしてしまったんで、『あっ!』と思いました。あれはプロレスラーが絶対にやってはいけないことです。無防備な相手の頭部に強い蹴りを入れるというのは、相手に重大なダメージを与えかねないし、死に至らしめることもある。

 おそらく猪木さんは、そこまで噛み砕いて説明していなかったんでしょう。オーちゃんに檄を飛ばす意味も含めて、『あんなプロレスでいいのか?』『やっちゃえ!』みたいな感じで言ったんだと思います。

 それをオーちゃんが『あっ、やってもいいんだ』と、そのまま受け取ってしまったんではないかと。僕はプロレスの裏も表も知っていますけど、オーちゃんはまだキャリア2年に満たないくらいでしたから。橋本選手にはすごく申し訳ないことをしたなと思います」