異種格闘技戦「アントニオ猪木対モハメド・アリ」や、人か猿かの論議を呼んだ「オリバー君」、「国際ネッシー探検隊」から奇書『家畜人ヤプー』などをプロデュースし、昭和をにぎわせた伝説の興行師の康芳夫氏が2024年末に逝去した。康氏に関わった経済界、政界、芸能界、文壇等の第一人者による偲ぶ会が2月10日、東京都内で開かれ各人の思い出を熱く語った。ただ、参加者の誰も触れなかったのがオリンピックを巡る康氏と電通との“ケンカ”だった。(フリーランス記者 後藤逸郎)
誰も触れなかった康氏と電通のケンカ
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「康芳夫を偲ぶ会」は東京・日比谷の日本プレスセンタービルで開かれた。康氏が生前好んだピンク色がドレスコードに指定され、遺影と遺骨を置いた祭壇も怪しいピンク色の照明に染まる。ヘビー級のプロボクサーのアリが改名前のカシアス・クレイを通じて康氏と親交のあったジャズピアニストの山下洋輔氏の生演奏が会の開始を告げる。オリバー君の出演番組のアシスタント・ディレクターとして世話をしたテリー伊藤氏が司会を務め、のっけから「チンパンジーでした」と暴露。ネッシーを探した石原慎太郎氏や親交のあった三島由紀夫の著作もある猪瀬直樹氏は「最後の無頼派」と康氏を称えた。家畜人ヤプー映画化の名目で康氏から資金提供を求められた川邊健太郎・LINEヤフー会長は「債権者です」と告白。ボクシングプロモーター・金平桂一郎氏や作家の島田雅彦氏、脳科学者の茂木健一郎氏ら多くが言葉を贈ったが、誰も触れなかったのが康氏と電通の闘争だ。
「竹田恒和・国際オリンピック委員会(IOC)委員が東京2020五輪・パラリンピック招致を巡る収賄容疑でフランスに捜査されている」
18年末、当時毎日新聞特別報道グループ編集委員だった筆者は康氏からの電話に衝撃を受けた。16年に週刊エコノミストの電通特集で康氏にインタビューして以来の付き合いから、康氏の情報は信頼していた。しかし、そんな話は寝耳に水。在日仏大使館に照会したが、回答はなかった。なんとか記事にしたかった私は「康さん、情報源は明かせますか」と尋ねたが、「それだけは言えない」と拒まれた。仏司法当局が正式に捜査開始を明らかにしたのは年が明けて1月に入ってからだった。改めて康氏の人脈の深さを思い知った。
伝説の興行師と呼ばれた康氏と電通の関係とは。五輪招致を巡る戦いなどを次ページでつづっていく。