これらは可逆的な細胞停止状態と呼ばれています。可逆的とは元の状態に戻れることです。つまり、増殖が休止しているけれども増殖しようと思えば増殖できます。

 たとえば、肝臓や腎臓の細胞を手術などで1部を切り取ると、手術後に細胞は増えて、元の状態に戻ります。もっともわかりやすいのは皮膚の細胞で、普段は停止状態ですが、もし切り傷ができた場合は、病原体の侵入を防ぐために傷を防ごうと増殖します。必要なときに増殖するのが、成人の多くの細胞の正常な状態です。

 一方で、細胞老化は増殖が止まると、二度と細胞分裂しなくなり、増えなくなります。人間の場合、分裂を数十回繰り返すと分裂を停止します。細胞分裂を停止した細胞が「老化細胞」と呼ばれます。

老化細胞が炎症を起こすのは
自分を取り除いてもらうため

 細胞老化の秘密を解くひとつのカギになりそうなのがSASP(細胞老化随伴分泌現象)です。

 SASPは、老化細胞が炎症物質を分泌する現象です。

 これは、悪い現象に思えるかもしれません。しかし、炎症は決して悪いだけのものではありません。

 炎症とは、体に侵入してきた異物に対する一過性の防衛反応です。

 SASPがなぜ炎症物質を分泌するかというと、免疫細胞である白血球などに、不要になった老化細胞を死滅させてもらいたいからです。炎症とは、いらなくなった細胞を取り除くサポートをしているんですね。SASPは、いらない細胞を取り除くための司令塔です。

 ただ、加齢などで免疫細胞でも老化細胞の除去がうまくできなくなると、老化細胞が体の中にたまり続けて、問題が起きます。

 ずっと炎症物質を放出し続け、さまざまな臓器に慢性炎症を起こします。

 本来、炎症は一時的であって、病原体の侵入などを防ぐには不可欠のものです。これを「急性炎症」と呼びます。

 ところが、長時間持続して起きることで「慢性炎症」となってしまいます。

 血管の内側に慢性炎症が起きれば動脈硬化、内臓脂肪ならば糖尿病、心臓の筋肉ならば心不全、脳神経ならばアルツハイマーなどの原因になることが最近になりわかってきました。