ですから老化細胞は炎症を起こすという問題もあるけれど、がんにならないためには必要なのです。原先生は、「老化細胞はがん細胞を増殖させないために生まれながらに備えられている安全装置」と言っています。
また、老化細胞は「人間が自らの細胞をがん化させないために進化の過程で生まれたのでは」と指摘する研究者もいます。進化の産物かもしれないのです。
老化細胞が蓄積するのは
長寿化がもたらした副作用
こうした老化細胞のプラスの側面は他にもありますので無視できません。
たとえばSASPを起こした老化細胞が分泌するものの中には増殖因子などもあり、状況によっては傷の修復(創傷治癒)を促進することもあることが知られています。
老化細胞は、そのものが悪いわけではなく、過剰な蓄積が問題です。最近は、老化の情報を知りたい、研究者ではない人にも「セノリティクス」が認識されています。
しかし、こうした問題も含んでいるので、注意が必要です。老化のメカニズムについての全貌はまだ見えていないからです。
そもそも、老化細胞が人体に悪さしかしないようでしたら、進化の過程でなくなっている可能性が高かったはずです。
原先生は「人間は急激に寿命がのびたために、SASPの副作用に対応しきれていない」と指摘します。
日本の平均寿命は1896年は男性42.8歳、女性44.3歳でしたが、今では80歳を軽く超えています。医療の発達で乳幼児の死亡率が大きく改善された背景もありますが、これほど短期間での長寿化は人類史上でも例がありません。
つまり、「がん化」を防ぐという若い個体の生き残りのためのメカニズムが、想定外の長寿化によって、慢性炎症を引き起こすというマイナスに働いてしまっているのかもしれません。
セノリティクスによって老化細胞を除去してしまうと、予期せぬ副作用が現れる可能性があるので、慎重さが求められるというのが原先生の主張です。
老化細胞除去薬に関する論文の中には、追試しても再現できないものもあるそうです。正常な細胞にもダメージを与える恐れがある薬もあります。







