また、正常な細胞に細胞老化を引き起こし、個体老化を促進させる可能性もあります。

 老化細胞は分裂を完全に停止しているのに、死なずに悪さをする可能性もあるため、「ゾンビ細胞」と呼ぶ研究者もいます。細胞老化=個体老化ではありませんが老化細胞が増えると個体が老化するのはこのSASPが原因とみなされています。

老化細胞は単なる悪ではなく
がんを防ぐ役割も持つ

 おそらく、みなさんは「老化細胞、怖い。どうにかしてなくせないの?」と感じたのではないでしょうか。

 実際、研究者にも「死にもせず、分裂もせず、悪さをして病気の原因になりかねない老化細胞は取り除いた方がいい」と考える人は少なくありません。

 むしろ、医学界の主流になっています。老化細胞を減らせれば健康寿命がのびると、世界中で老化細胞を除去する薬(セノリティクス)の開発が過熱しています。

 ただ、原英二先生(大阪大学微生物病研究所教授)は、「老化細胞をとにかく除去すればいい」とする風潮に疑問を投げかけます。老化細胞には人体にプラスの側面もあるからです。

 そのもっともわかりやすいプラスの効果が、細胞の「がん化」を防止している可能性です。

 細胞内のDNAが傷ついた場合、細胞は傷を修復しようとします。

 DNAは生命の基本設計図です。この設計図にもとづいて、細胞を形成するたんぱく質がつくられます。

 DNAに傷が入るというのはこの設計図に間違いが生じることです。設計図に間違いが入れば当然問題が起きます。放っておくと無秩序に増殖する「がん細胞」は、これによって起こります。

 DNAは紫外線や、通常の新陳代謝などで1日に1細胞あたり何十万回も傷つくので、設計図の間違いは常に起きていて、そのたびに修復されています。これにより、私たちは何も問題なく健康に過ごせています。

 しかし、修復が間に合わないほど傷ついたとき、P16という遺伝子が働いて、細胞分裂を停止し老化細胞になります。そして、さきほど説明した通り、SASPが必要に応じて、炎症という信号を出し、免疫細胞を使って除去します。