「うま味調味料は危険」「味覚が壊れる」――そんな不安を、なんとなく信じていませんか。嫌われがちなグルタミン酸ナトリウムですが、その多くは思い込みや古いイメージにすぎません。私たちは何を誤解し、何を事実として知るべきなのでしょうか。
東京農業大学で栄養について長年研究し、医師としても活動する田中越郎氏の新刊『医者が教える 栄養学的に正しい最高の食事術』をもとに解説します。
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「うま味調味料=危険」は思い込み
一部の人から徹底的に嫌われているものに、うま味調味料があります。
以前は「化学調味料」と呼ばれていましたが、今は「うま味調味料」と呼ぶようです。
食品中に食品添加物として入っている場合は「調味料(アミノ酸等)」などとラベルに記載されています。
うま味調味料の代表がグルタミン酸ナトリウムで、昆布のうま味の主成分です。
うま味調味料が嫌われている理由を、グルタミン酸ナトリウムを例にして考察してみます。
主な理由としては、
①石油から作っている
②天然品ではなく不自然である
③脳の働きがおかしくなる
④味覚が狂う
などでしょうか。
ではこれらを順番に解説していきます。
まず①「石油から作っている」ですが、これはまちがいです。
確かに、数十年前に石油由来の原料から作っているものもありました。
このときは、石油が人間の食糧になれば、すなわち石油からたんぱく質を作り出すことができれば、この技術は食糧危機の救世主になるぞと賞賛を浴びていました。
しかし現在は石油ではなくサトウキビを発酵させて作られています。
サトウキビをエサにして、微生物にグルタミン酸ナトリウムを作らせているのです。つまりは誤解です。
②の天然品ではないので不自然であるという意味は、おそらく自然界のグルタミン酸はいいが、調味料のグルタミン酸は化学物質だからダメだ、という理論かと思います。
しかし、当然のことながら両者はどちらも同じ化学物質であり、物質としての差はありません。
②は非科学的な感情論として切り捨てていいでしょう。
③の脳の働きがおかしくなるという話には、少し詳しい説明が必要です。
脳では、神経の指令を次の神経に伝えるために、グルタミン酸という物質も利用しています。
したがって、調味料としてグルタミン酸ナトリウムを大量に摂取すると、脳の神経伝達がおかしくなるのではないかという理屈です。
この話の発端は、1968年に米国の医師が「自分は中華料理店で食事をすると、食後に頚の後ろからしびれ感が広がり、全身の脱力感や動悸が出る」という短い手紙を超有名な医学雑誌に投稿し、同じような症状を感じた人はいませんかと募ったことでした。
この記事は「中華料理店症候群」として大反響を生み、ニューヨークタイムズまでもが参加するお祭り騒ぎになりました。おそらく中国の料理や店に対する偏見や人種差別も加わっていたのだろうと推察します。
科学的な論文としては、これまた有名な『サイエンス』という雑誌に「グルタミン酸ナトリウムをネズミに注射したら、脳の壊死、発育不全、肥満、不妊がおこった」ことが報告されました。
ただしこれは、注射したグルタミン酸ナトリウムの量がとてつもなく多く、体重50kgの人間に単純換算すると110gから290gもの量を17日間毎日注射していたことになります。
グルタミン酸ナトリウムの危険性については、懐疑的な意見が多かったのですが、危険を煽った意見の方が注目されるのは、いつの時代も同じです。
その結果、危険性を強調した部分だけが目立つところに蓄積され、記憶されたまま現在に至っています。
しかしながら、正しい科学の目で見た場合は、グルタミン酸ナトリウムの人間に対する明らかな健康被害は報告されていません。
前記の中華料理店症候群の真の原因は不明ですが、おそらくグルタミン酸ナトリウム以外のものだと思います。
ということで、結論です。
常識的な常用量を守っている限り、グルタミン酸ナトリウムは安全だとみなして大丈夫でしょう。
④味覚が狂う、を考察します。
昆布のダシはおいしいですよね。この昆布味の主成分はグルタミン酸ナトリウムです。
しかし、決してそれだけではなく、それ以外の成分もたくさん混ざっています。
昆布の味は、グルタミン酸ナトリウムと雑多な成分の味とが全部足し合わされて、その総合的なバランスで昆布独特なおいしい味を作っています。
そこにグルタミン酸ナトリウムだけを大きく突出させたら、微妙な総合味が崩れてしまい、人によってはおいしさが半減することがあるのは確かです。
そもそも味というものは個人差が大きく、何をおいしく感じるかは人それぞれです。
一般的には、子供のときから慣れ親しんだ味をおいしいと感じます。
子供のときから昆布でダシを取った料理を食べていたら、昆布ダシをおいしいと感じます。
一方、子供のときからグルタミン酸ナトリウムいっぱいの料理を食べていたら、グルタミン酸ナトリウムをおいしいと感じる人になります。
そういう育て方がいいのか悪いのかは、個人の考え方次第だと思います。
なお余談ですが、おいしさの正体としてグルタミン酸ナトリウムを最初に発見し、最初に商品化したのは日本人です。
味覚の研究では日本は世界のトップクラスを走っています。
(本記事は、書籍『医者が教える 栄養学的に正しい最高の食事術』から一部抜粋・編集した記事です。)







