世界の富裕層たちが日本を訪れる最大の目的になっている「美食」。彼らが次に向かうのは、大都市ではなく「地方」だ。いま、土地の文化と食材が融合した“ローカルガストロノミー”が、世界から熱視線を集めている。話題の書『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著)から、抜粋・再編集し、日本におけるガストロノミーツーリズム最前線を解説。いま注目されているお店やエリアを紹介していきます。

食通だけが知る! 独自の食文化が根付く、長野の隠れた「美食地帯」とは?Photo: Adobe Stock

一日一組限定のレストランも

 長野県・伊那谷。南アルプスと中央アルプスに挟まれ、天竜川がゆるやかに流れるこの土地には、交通が不便で農地が少なかった分、昆虫食や発酵文化など独自の食の知恵が息づいており、隠れた美食地域として知られています。

 たとえば、箕輪町の「GUUUT(グート)」。築150年のビール貯蔵小屋を改装したタイ料理レストランです。発酵という共通点を軸に、いまだに冷蔵庫のないところもあるタイの山岳民族料理と伊那谷の伝統食材を掛け合わせた「里山タイ料理」を提供しています。ワンオペで料理もサービスもこなすため、味わえるのは一日一組、最大でも6人に限られます。

 シェフの三浦俊幸さんは伊那市出身で、六本木で店を営みながら伊那と東京の二拠点生活をしていました。畑仕事に精を出したことから野菜の保存方法として発酵を学び、タイやラオスの料理に惹かれ、Uターンして「GUUUT」を作り上げたのです。

 私が訪れたときに出された「里山タイ料理」の品数は9種類

 アミューズの後に続く料理は、これまで食べたことのないものばかりでした。伊那谷で作られている地鶏「ギタローシャモ」のおかゆにミンチを載せた、日本料理でいえば飯蒸しから始まり、ニジマスの熟(な)れ寿司、チェンマイソーセージのラビオリなど。中でも特に印象的だったのは、天龍牛のはねしたを低温調理して、モツの油でコンフィしたもの。「冷蔵庫を持たない山岳少数民族の知恵から生まれるものは、こういう味なのか」と納得しました。

 この「GUUUT」を起点に、楽しんでほしい店がいくつかあります。

 ひとつは、「中国菜 木燕(ムーエン)」。ここも伊那の伝統野菜や発酵食材を使い、中国料理に再構成しているユニークなお店です。

 もうひとつは、「食堂 野山」です。昼は定食、夜は「山肴野蔌(さんこうやそく)」と名前を変えて、薪火料理を提供しています。地元でとれた山菜やジビエを、山の澄んだ空気とともに味わうひとときは、時間をかけてガストロノミーを楽しむことでしか味わえません。

 さらに、少し足を伸ばせば『ゴ・エ・ミヨ』にも評価された「柚木元(ゆきもと)」をはじめとする、実力派の店が点在しています。伊那谷には、観光地としての派手さはありませんが、料理人と土地の対話が見える、丁寧な美食があります。

※本記事は、『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著・ダイヤモンド社刊)より、抜粋・編集したものです。