撤去が進められていたのは、箱型ブランコ、遊動円木、回旋塔の3種で、遊具業界では絶滅3種と呼ばれていました。いずれの遊具も「動き」があるのが特徴でした。

 遊動円木が最もシンプルで水平方向への動き、箱型ブランコは水平方向と垂直方向への動きの組み合わせ、回旋塔は真ん中の軸を中心とする回転運動です。その動き方が激しくなるほどに子どもたちが感じる楽しさは増しますが、一方で子どもたちがケガをする可能性も高くなります。これを撤去以外の方法で解決するのはなかなかの難題でした。

 学生たちは頭を悩ませながら、どうすれば危なくない遊具をつくることができるかを考えました。安全性の高い遊具のアイデアがいくつも出ていましたが、やがて至ったのは、そもそも「危なくない遊具は面白くない」という重要な解です。

 子どもたちは楽しむために遊具を使って遊んでいますが、それはある程度の危なさがあるから感じられるものです。危なさのまったくない遊具は魅力がないので、つくっても意味がないという考えに至りました。

危険度を調整しようにも
子どもは予想外の動きをする

 そこから進むべき方向が変わりました。遊具から危なさを完全に排除するのではなく、あえて残しつつ、危なさを制御することを検討しました。

 大きな危険は排除するものの、小さな危険はあえて残したほうが、子どもたちが遊具で遊ぶ楽しさを感じることができます。その方向で致命的な危険のない、危なくない遊具をいかにつくるか検討しました。そして、この案を危険学プロジェクトで引き継いで、遊具メーカーの協力を得て実際につくってみたのです。

 こうして新型箱形ブランコと新型遊動円木ができあがりました。この取り組みは絶滅が宿命づけられた遊具から、楽しさを残しつつどこまで危険を排除できるかの実験でもありました。

 この「制御された危なさ」を特徴とする新型遊具をイベント会場に設置して子どもたちに実際に試してもらって感想を聞いたところ、概ね好評でした。

 この結果を受けて、一時はある場所に常設することを考えましたが、実際にやってみると新たな壁にぶつかり、そんなに甘くはないと思い知らされました。

 実際に運用してみると、ふつうに遊ぶ分にはまったく問題ないものの、子どもたちはより強い刺激を求めて遊具を激しく動かそうとすることがわかったのです。

 これでは使用している子どもたちにとって危険であるのはもちろんのこと、まわりで見守っている子どもたちにも衝突事故に巻き込まれる危険がありました。こうした事故を防ぐには、警備員などをつけて、子どもたちが危険な遊び方をしないように見守らなければならず、一時的なイベントでは可能ではあるものの、常設して運用するのはとても無理でした。

より強い刺激を求める子どもの
リスク管理にはコストが必要

『人生の失敗学 日々の難儀な出来事と上手につき合う』書影人生の失敗学 日々の難儀な出来事と上手につき合う』(畑村洋太郎、朝日新聞出版)

 つまり、遊具の危険を制御するのは、システム変更だけでは難しく、別の対策と組み合わせることが必要なのです。これはそれなりのコストをかけなければできないので、危なくない遊具は汎用的に運用することはできないという結論に至りました。

 これも大事な教訓でした。日常的なリスクも同じで、お金をかけずに手っ取り早くカバーしたくなりますが、必ず抜けが出てきます。

 家庭の防犯システムがいい例で、監視カメラや侵入を検知するセンサーなどは自分で設置できるものの、いざというときに対処がすぐにできるようにするには、警備会社など外部の力に頼らざるを得ません。

 これには当然、相応のコストがかかります。危なさを制御するのは、それくらいたいへんなことなのです。それでもリスクの管理のために必要であることに変わりはないので、財布と相談しながら自分にとって適当と思える方法を模索しながら進めるしかないでしょう。