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首都圏における中学受験塾の王者、SAPIX(サピックス)の凋落がささやかれる今、難関校志向を売りとする「少数精鋭型」の中学受験塾の人気が高まっている。知られざる少数精鋭塾の神髄を各塾のキーパーソンへの忖度なしのインタビューで明らかにする連載『ポストSAPIX 中学受験の少数精鋭塾大解剖』#5では、御三家など最難関校への合格率でSAPIXを凌駕すると言われ、ハイレベルの算数教育で高い支持を集める「エルカミノ」の幹部と対談。その前・中・後編のうち後編をお届けする。(教育ジャーナリスト おおたとしまさ)
真の「思考力」を鍛えることで
正解への道筋がふわっと湧いてくる
おおたとしまさ エルカミノのウリである算数の思考力について、少し突っ込んだ質問をさせていただきます。エルカミノが考える「思考力」とは何なのでしょうか。
古庄歩エルカミノ副代表・理科総合責任者 パターン化されていないものに対して、どうアプローチしていくかを自分で探していくことです。
たとえば面白い補助線を引いたりとか、そういうのをどんどんやってほしいです。自分でいろいろ考えながら、かといってやみくもでもなく、「もしかするとここに合同が発生するかもしれない」「相似ができるかもしれない」という可能性を求めて補助線を引いてほしい。その試行錯誤をすることが、最終的な思考力につながっていくのではないかと思います。
最終的にできる子になると、「なんでこのとき、旅人算なの?」と聞いたら、「なんとなく。たぶんこれでいけると思った」と答えます。それが正しい姿だと、私は思っています。思考力がつくと迷いがなくなるので、問題を見たときに道筋が思い浮かぶのでしょうね。私も理系の人間なので分かりますが、そのふわっと湧いてくるものが思考力なんじゃないかと思っています。
おおた 関西の名門・東大寺学園の数学の先生がおっしゃっていました。入試でときどき、まったく式を書かずに正解する子がいると。そういう子にこそ来てほしいと。だけど、そういう子はだいたい灘にも受かって、そっちに行っちゃうんだけどね、とも(笑)。
古庄 そうなんです!
おおた ちゃんときれいに式を書けって指導はしないんですか。
古庄 しません。親御さんは「途中式を書いていないですが、いいんですか?」と心配しますが、「ノートにきれいに書かせるみたいな指導はやめてください」と保護者にも伝えています。
おおた でも一般的には、きれいにノートを書きなさいみたいな指南書も多いじゃないですか。「こうやって勉強を見てあげましょうね」「ノートの書き方はこう」みたいな指南書を見ていると、「本当にこれでできるようになるのか?」と不思議に思っていました。自分だったら、そんなところまで指図されたら勉強する気がなくなると思うから。
古庄 そうですよね。できる子に計算式を書かせると、思考の速度に手のスピードが追いついてこないので、それなら暗算で、その子が書きたいと思ったマイルストーンの数字だけをパンパン書かせて進ませてくださいと保護者には言っています。
おおた そうやって塾の先生が守ってくれると、算数好きのシャシャシャっと解くタイプの子は水を得た魚になりますね。
古庄 そもそもエルカミノにはノートがありません。テキストにぜんぶ書き込みます。問題の下の空白にガーッと書く。私たちがそこを見れば「あぁ、ここでしくじっているな」というのが分かります。「エルカミノのノートの書き方」というテーマで執筆依頼が来たこともありますが、「いや、うちはノートがないからそれは無理です」と(笑)。
おおた それは痛快ですね。教材は冊子の形になっているのですか。
古庄 代表の村上(綾一氏)が執筆したテキストを授業ごとに社内のコピー機で印刷して自動留めして渡しています。授業時に渡されるので予習はできません。1週間単位で宿題までが一つの冊子になっています。
おおた エルカミノの現在の課題を挙げるとすれば何でしょうか。







