相手を変えることはできないが、自分の考えは変えられる

 相手を変えることはできませんが、自分自身のビリーフに取り組み、意識が変わると、それは相手にも伝わるようで、特別に何かをしなくても、その関係に変化が生じます。

 こうした体験が、たまたまうまくいったということでないことは、その後、自分や他の人の数多くのワークを通じて、確認することができました。ケイティのワークは、このように短時間でも目に見える効果を実感できることにより、多くの心理療法家やコーチなどの専門職にも驚きをもって受け止められ、高い評価を得ています。

 筆者は日常的にもワークをよく使っていて、正式な形でなくても、たとえば仕事中に、「自分にはとてもできない!」という考えが浮かぶ度に、「それは本当でしょうか?」と問いかけることが身につくようになりました。そうすることで、ストレスフルな考えや感情に時間やエネルギーを費やすのではなく、自分が取り組んでいることに意識を戻すことができます。また、難しい相手にメールを書かなければいけない時も、事前に相手についてのワークを行うことで、気持ちがクリアになり、落ち着いて対応できます。

「目覚めの体験」で人生が変わったバイロン・ケイティ

 ここで、バイロン・ケイティとはどういう人なのか、説明しておきましょう。

 現在70歳になった彼女は、クリアな意識をもち、何事も恐れていないかのような存在感があり、同時に、どんな人でも温かく受けとめてくれるような優しさを兼ね備えています。そしてユーモア感覚にもあふれ、彼女のセミナーではよく笑いが起きます。

 そんな彼女も、43歳で「目覚めの体験」をするまでは、大変な人生でした。南カリフォルニアの小さな町に住む不動産関係のビジネスウーマンで、2度の結婚を経て、3人の子どもを育てていましたが、10年にわたり、怒りや妄想、絶望がひどくなるばかりで、自殺衝動に駆られることもよくありました。

 しかもそのうちの2年間は、ひどい鬱状態のため、めったに家から出ることすらできない状態だったのです。子どもたちは、母親の逆鱗に触れることを恐れ、びくびくしていました。そしてついにケイティは、保険が唯一使えた、摂食障害の療養施設に入ることになるのですが、ここでも周囲の人たちから恐れられ、屋根裏部屋に隔離させられました。