日本は旅行者にとっては天国だが、住むとなると息苦しい

 老沙さんとよく似た話を、筆者は別の中国人女性からも聞いた。彼女は20代前半で、高校からカナダに留学し、現在はカナダの大学に在籍している。東京の国立大学との交換留学で1年間日本に滞在した。

 これまでに10回以上日本を旅行し、そのたびに日本を好きになった。将来は日本で暮らしたいと考え、交換留学中にじっくり生活を体験して進路を決めようとしたという。

 だが、彼女が口にした第一声は、意外なものだった。

「日本は旅行者にとっては天国のような国ですが、住むとなると息が苦しくなります」

 理由として挙げたのは、やはり「見えないルール」の多さだった。

 たとえば、エスカレーターで立つ位置は東京と関西で異なる。日本人でも戸惑うようなルールなのに、外国人が間違えると冷たい視線を向けられることがある。飲食店で少しだけコンセントを使って充電したくても、許されないことが多い。電車内では、知人同士で会話するのはよくても、携帯電話に出るのはマナー違反とされる。日本人の「本音」と「建前」の境界も見えにくく、友人関係を築きづらかったという。

「短期旅行のときは気にならなかったことが、生活してみると次々に見えてきました。1年間暮らして、こういうきっちりした社会は自分には向いていないと分かりました。旅行ではまた来たいですが、住むのは違うと思いました」

住む場所に「正解」はない

 国境を越えて暮らす場所を選ぶことは、もはや特別なことではない。だからこそ、日本を「理想郷」と感じる人がいる一方で、「息苦しい国」と感じる人がいても不思議ではない。

 実際、老沙さんの投稿に対しては、「自分が日本に住みたい理由そのものだ」と、まったく逆の感想を寄せた在日中国人もいた。

 日本を離れることは、敗北でも逃避でもない。どこで暮らすのが自分に合っているのかを見極めたうえでの、一つの選択にすぎない。老沙さんのその言葉は、国をまたいで生きる時代の現実をよく表している。