この奇跡的な勝利の結果、宗教シオニズムだけでなく、世俗的な右派や左派のあいだにも、新たな占領地からの撤退に断固反対する大イスラエル主義が急速に拡大した。

イスラエル国民の6割が
自身を「右派」と認識

 イスラエルのユダヤ社会の右傾化、宗教化も大イスラエル主義の一般的な流れや宗教シオニズムの拡大を後押しした。1970年代までのイスラエル政治では、左派ないし中道勢力が主流で、占領地問題への現実的な対応を主張する労働党が中核政党だった。

 ところが1970年代後半から、大イスラエル主義を掲げる右派政党リクードが台頭した。その結果、2000年代初頭までは2党並立時代が続いた。

 さらにその後も大イスラエル主義やそれに近い主張をする右派や中道右派政党が勢力を伸ばし、リクードはほとんどの選挙で第1党となり、労働党は凋落を続けた。そのおかげでリクード党首ネタニヤフは1996年以来、現在まで合計で歴代最長となる18年以上も首相の座にある。

 世論調査でも右傾化は顕著だ。みずからを「右」と答える者の割合は、2000年代初めの40%強から2020年代初めには60%強になった。学校や軍で民族主義思想が盛んに教えられていることに加え、中東和平プロセスの失敗やイランの脅威増大などで、力を重視するポピュリズム的な右派の強硬な主張がより支持されるようになったのである。

 また占領の長期化は、西岸などへのイスラエルの支配を当然視する風潮を強め、大イスラエル主義拡散の土壌となってきた。

 宗教化の要因の1つは、宗教的ユダヤ人の人口増加率が高いことにある。超正統派や宗教シオニストなど宗教的なユダヤ人の出生率は世俗派の2倍から3倍もある。

 さらにイスラエルのユダヤ社会では暦だけでなく、国や学校行事から個人の冠婚葬祭に至るまで、日常生活のほとんどはユダヤ教の教えや伝統に基づいている。

 加えてハマスやヒズボラなどのイスラム主義組織との対立激化が、ユダヤ人の宗教意識を強めている。

 宗教的な傾向は政治意識ともかなり相関している。2003年から2022年の調査結果の平均で、みずからを右派と答えた宗教シオニストは82%に上り、超正統派でも75%が右派と答えている。