スタートアップが成功できるか、失敗して消えてしまうか? それを決めるのは、Product Market Fit(PMF:プロダクト・マーケット・フィット/市場で顧客に愛される製品・サービスを作ること)を達成できるかどうかにかかっている。増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』(田所雅之著、ダイヤモンド社)は、起業家の8割が読み、5割が実践する起業本のベストセラー『起業の科学』を9年ぶりに大改訂した最新版。本連載では同書から抜粋して、スタートアップの成長を加速するポイントについて、わかりやすくお伝えしていきます。

なぜ、スタートアップは一時的な組織にすぎないのか?Photo: Adobe Stock

永遠のスタートアップは存在しない

 優れた起業家教育で知られる、スティーブ・ブランク氏は、スタートアップを次のように定義づけている。

スタートアップはスケーラブルで、再現性のある利益を生み出すビジネスモデルを探索する一時的な組織である」。

「一時的な組織」という指摘は耳慣れないが、これはスタートアップをこれから志す人にも重要な視点だ。

 つまり、スタートアップがPMFを達成してスケールする段階になったら、新たなビジネスを生むことより経営効率を追求する「一般企業」に変わる(移行する)必要があるということだ。

 このトランジションは、どんなスタートアップでも避けることはできない。

 コアメンバーが同じであっても未来永劫スタートアップであり続けることは、論理的にあり得ないのだ。創業メンバーは、ステージが先に進むにつれ自分たちも変化(進化)し続けなければならない。

ゾンビスタートアップとは?

「ゾンビスタートアップ」という言葉がスタートアップの世界にはある。スタートアップとして始動したのに10年、20年たってもスケールせず、そうかといって倒産もしない会社のことだ。

 実は、こうした会社がたくさん存在する。

 だいぶ前に資金調達はしたが、IPOのチャンスを逃し、当座の食いぶちを確保するために始めたはずの業務(受託業務やコンサルティング業務)がいつの間にか事業の柱になっていたりする。

 特に、日本においては東証100億円問題(東京証券取引所は2025年9月、グロース市場の上場維持基準を「上場から5年で株式時価総額100億円に達しない企業を上場廃止」に変更する方針を発表。従来は「上場から10年で時価総額40億円以上」が基準だった)が起きている。

 スモールIPOが難しくなっており、IPOができずに、かといって事業の廃止もできないスタートアップが増える懸念がある。

 スタートアップや起業を始めるコストは劇的に下がった。一方で、PMFを達成し、その上で競争優位性を築いて持続的に成長していける企業は一握りである。

一般企業の経営陣の役割は
スタートアップとは全く異なる

 Google、Apple、Amazon、Metaといった会社は、スタートアップ起業家にとっては羨望の的だ。

 しかし、これらの会社は既にスケールしており、現在はスタートアップではなくなっている(これらの企業は新規事業を数多く立ち上げているが、あくまで、着実に成長できる本業で稼いだキャッシュを新規事業に再投資している状態であり、組織としてはスタートアップではない)。

 これらの大企業も、最初の頃は、非常に不確実性の高い状況で、PMFや事業をマネジメントしてきたスタートアップだった。

 そもそも、スタートアップとは市場が顕在化されていない状態から、市場や需要を生み出す組織である。

 世に言うシリアル・アントレプレナー(連続起業家)は、アイデアを生み出しPMFを達成して「0」から「1」を生む能力に優れ、そこにモチベーションを感じる。

 スタートアップがスケールして一般企業になるとき、トップに求められるのは事業を拡大する能力や組織全体のモチベーションを保つことだ。

 この段階で求められるのは「1」を「100」にすることであり、経営陣としての役割はスタートアップと全く異なるものになる。

(本稿は増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動した。
日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップ約1500社の評価を行ってきた。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。
2017年、新たにスタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。その経験を生かして作成したスライド集『スタートアップサイエンス2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』『「起業参謀」の戦略書』(ダイヤモンド社)など。