湘南鎌倉総合病院の関根一朗医師湘南鎌倉総合病院の関根一朗医師 撮影:笹井恵里子

救急車が現場に到着するまでにかかる時間は、全国平均でおよそ10分。現場が高層マンションの場合など、救急隊が現地に到着して傷病者に接するまでにはさらに時間を要することがある。救命の可能性は、救急隊を待つ間に現場に居合わせた人(バイスタンダー)が応急手当てを行えるかどうかで大きく変わるのだ。救急医療の最前線で働く医師に、緊急事態において私たちができることを聞いた。(ジャーナリスト 笹井恵里子)

マラソン大会で女性が倒れた
「15秒以内にしたこと」とは?

 1万人の参加者を誇る大規模なフルマラソン大会に2016年、関根一朗医師(湘南鎌倉総合病院救命救急センター)は個人的に出場した。

 走り始めて7キロを過ぎた地点――関根医師の10メートルほど前を走っていた若い女性が突然、ぐらりと地面に倒れ込んでいった。周りの参加者は倒れる女性を避けるようにして走っている。

(いけない!)

 関根医師は駆け寄る。女性が痙攣(けいれん)しているように見えた。呼吸をしているかどうかの確認をする――していない。頸動脈も触れず、「心肺停止」(意識なし、呼吸なし、頸動脈が触れない状態)と判断した。

 すぐさま胸骨圧迫(心臓マッサージ)を開始する。ここまでで女性が倒れてから「15秒以内」だったという。

心臓マッサージとAEDで救命
女性はなぜ倒れたのか

「救急車を呼んでください!」

「AED(自動体外式除細動器)を持ってきてください!」

 沿道に向かって、関根医師は大きな声で叫んだ。

 応援していた人が近くの図書館に走っていくのが視界の端に入った。図書館にAEDがあるのだろう。また別の人も電話で救急要請をする。

 数分後、AEDが手に入った。関根医師はAEDを傷病者である女性に装着した。音声に従って心電図解析後、「除細動」(不整脈でうまく機能できていない心臓に電気ショックを与える医療行為)を行う。

 再び胸骨圧迫を継続しながら、2回目のAEDによる心電図解析。すると「除細動が不要」と判断されたため、さらに胸骨圧迫を継続した。数分して自発的な「呼吸」を確認でき、ほぼ同時に救急車が到着。救急車に収容されるときに女性は意識が戻り、自身の名前を言えるほどまで回復したそうだ。

 女性はなぜ心肺停止に陥ったのか。