胸骨圧迫は、傷病者の胸が最低でも5センチ程度沈み込む程度の強さで行うため、肋骨(ろっこつ)や胸骨が折れてしまう危険もあるが、「命が助かるかどうかというときに、万が一骨折してもそれは微々たる問題。ためらわずに行ってください」と関根医師が補足する。

 やり方がわからないときは救急要請時に指導してもらうこともできるので、スマートフォンをスピーカーモードにして救命措置を続けてもいい。

子どもが心肺停止したら
人工呼吸も行うのが望ましい

「2009年から『ハンズオンリーCPR』といって、『一般の方は人工呼吸を行わなくてもいいですから、傷病者が発生したときには胸骨圧迫のみの心肺蘇生法を行ってください。そしてAEDを使ってください』と世界中でキャンペーンされました。ただし子どもの場合は呼吸が原因で心肺停止になることが多いので、人工呼吸を含む応急手当てが望ましいですね」

 胸骨圧迫を30回連続して行った後に、人工呼吸を2回行う「30対2」の応急手当てが一般的だ。

「人工呼吸が難しい場合も、胸骨圧迫を継続することが重要です。心肺停止した人に、どんなにいい薬を使っても手術をしても、現場で胸骨圧迫をしていなければ元気になる可能性がグッと下がってしまうのです」

救急車到着までに応急手当てをするかで
生存者の割合は1.9倍の差に

 実際に総務省消防庁の2025年版「救急救助の現況」によると、全国の救急隊員が搬送した心肺停止の傷病者のうち、救急隊が到着するまでに一般市民による応急手当て(胸骨圧迫・人工呼吸・AEDによる除細動)が実施された場合の傷病者の1カ月後の生存者の割合は15.3%で、応急手当てが実施されなかった場合の割合7.9%と比較すると約1.9倍救命効果が高い。

図表:応急手当の実施および救命効果(2024年)総務省消防庁の2025年版「救急救助の現況」から引用 拡大画像表示

 また全国の中でも、福岡県の心肺停止患者の救命率(1カ月後の生存率)は高い。その値は20.9%(2015年から2024年までの10年集計)で、全国平均を大きく上回る。福岡県では、正しい応急手当てを習得できる救命講習が以前より盛んであるという。

 福岡県の飯塚病院顧問で救急科専門医の鮎川勝彦医師がこう話す。

「職場で応急手当ての訓練をした後に傷病者が発生し、皆で救命した例がありますし、市民の方の心臓マッサージで救命だけでなく社会復帰まで遂げた例もあります。通常、心臓の血液は全身に送られています。それが滞ることで脳に影響が出る可能性がありますが、1分でも早く心臓が動き始めることでそのリスクが軽減するんです」

 救急車の現場到着は全国的に年々遅れている。もし目の前で人が倒れたら、勇気を持って対応したい。

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