買収で「幸せになる会社」と「不幸になる会社」の天と地ほどの違い【マンガ】『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第62回では「幸せな買収」について解説する。

「共同戦線」なんてのんきなことを言っている場合じゃない

 それぞれの思惑から、アパレル企業・T-BOXの古参メンバーであり、同社の株式を所有する大林隆二、菅原雅弘、片岩八重子(ヤエコ)の3人は、ライバル企業・一ツ橋商事の井川泰子と会合を行う。井川は3人を取りこんでT-BOXを買収し、主人公でT-BOX社長の花岡拳を追放する計画を立てたのだった。

 会合後、大林と2人きりになった菅原は「共同戦線を張るという意思統一できてよかったじゃない」と安堵の声を漏らす。だが大林は「なにのんきなこといってるんですか」と菅原の発言を否定する。

 これまでT-BOXにさまざまな嫌がらせをしてきた井川の性格を見抜き、「一ツ橋商事がT-BOXを買収すれば、自分たちが社外に放り出される」と自身の見立てを語り、「そこまで読んで、こっちも対応する」と、自分たちからも「仕掛ける」ことを示唆するのだった。

 会合を終え、再び業務に戻った3人。ある日ヤエコは誰も居ないはずの夜の工場に物音を聞き、点検に行くと、そこには花岡が立っていた。社員が増えて手狭になった工場を見た花岡は「もう少しスペースに余裕ないと、みんなのストレス溜まるだろ」とつぶやき、工場移転の必要性を示唆するのだった。

「幸せな買収」だって存在する

漫画マネーの拳 7巻P185『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 工場でヤエコは花岡に、会社が買収される可能性についてどう考えるのかと尋ねる。すると花岡は「企業の発展のためなら…従業員や株主が幸せになるなら…」という条件をつけて、「買収されても俺は構わない」と受け入れる覚悟を語る。

「買収」「M&A」と聞くと、不穏な響きを感じる読者は少なくないのではないだろうか。誰かが会社を飲み込み、経営者が追われ、社員も振り回される——井川の動きは、そうした敵対的買収のイメージそのものだ。

 だが現実には、企業の発展につながり、従業員や株主にとっても前向きな結果をもたらす買収もある。もちろんそれは「買われる側の意向」の話だけではない。要は誰のための統合なのか、統合後に何を伸ばすのかという「相互補完」の設計があるかどうかということだろう。

 一例だが、2023年に大成建設がピーエス三菱に対して行ったTOB(株式公開買い付け)では、ピーエス三菱は賛同を表明しつつ、応募は株主の判断に委ねた。両社はTOB成立後も上場維持を企図し、企業文化や経営の自主性を尊重する内容の資本業務提携契約も結んでいた。

 完全子会社化ではなく連結子会社化を選んだ背景には、従業員のモチベーションや知名度への配慮もあった。業界内での競争優位性を高めつつ、相手の独立性も残そうとした買収と言える。

 もちろん、すべての買収がそんな幸せな結末を迎える訳ではない。井川のように、相手を利用し、使い終われば切り捨てる買収もある。だからこそ花岡は「従業員や株主が幸せになるなら」という前提条件を語ったのだろう。

 動揺するヤエコの様子をよそに、井川は着々とT-BOX買収の準備を進める。部下の高野雅人の同期でM&Aを担当する西田を呼び出して、打ち合わせを始めるのだった。

漫画マネーの拳 7巻P186『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 7巻P187『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク