東京・大阪圏における
DC適地と電力の不足

――計算量の増大と電力効率のバランスを見る必要があるのですね。

 予測をさらに複雑にしているのが、経済合理性の問題です。計算処理は有料の電力を大量に消費しますから、生み出される価値が電力コストを上回らなければ採算が取れません。

 一方、ビッグテック間の競争では、採算度外視でAGI(汎用人工知能)到達を目指して走ってきた面があります。勝ち残るために投資を続ける“チキンレース”から降りられないと考えられます。たとえAGIが実現しても、フィジカルAIの時代に向けて次の競争が始まると見られており、踊り場を経ながらも全体的な計算需要は拡大を続けていく可能性が高い。

 足元ではとにかく需要増大が先行し、供給側が四苦八苦しながら対応している。クラウドサービスを大規模に構築・運用する企業(ハイパースケーラー)が、東京への投資を積極化させる中、東京圏では電力インフラの整備が追いついていません。

――技術開発と生成AI普及の急激な進展に、インフラ整備が追いつかない。

 ビット側の課題とワット側の課題があり、それらが複雑に絡み合っています。

 ビット側、つまりDCの設置・整備に関わる課題として最初に挙げられるのが、都市部における適地と電力の不足です。DC投資は東京・大阪圏に集中しています。特に東京圏では電力系統の逼迫が深刻で、新たな接続申し込みの場合には10年以上かかるケースもあります。土地の問題も同様で、適地が限られて、住宅地との近接が避けられなくなり、地域住民との軋轢が生じる事例も報告されています。

 DC事業者は、それでも東京・大阪に投資したいというのが本音です。なぜなら、東京・大阪は大企業が集積していてデータ需要が大きく、運用に必要な人員やネットワークも確保しやすいからです。

 ワット側の電力会社から見ると、都市部の電力会社は、足元での急速な系統増強要求には対応しきれないながらも、長い目で見れば大切な大口顧客を逃したくない。他方、多くの地域の電力会社は、有望な大口顧客としてDCを積極的に誘致したい。

 自治体にも自治体なりの思惑があり、国は国でデジタルインフラの整備と脱炭素目標の達成を両立する必要がある。再生可能エネルギー(再エネ)の事業者は、発電した電力を捨てざるを得ない出力抑制をできるだけ減らしたい。このようにステークホルダーごとに利害と優先事項がバラバラであり、全体最適を図ろうとしても共通の議論の土俵すら定まっていません。

 ワット側の指標として重要なのが脱炭素です。政府はエネルギー基本計画において電源構成の6割以上を脱炭素電源とする目標を示しています。電力消費の伸びが最も著しいセクターがDCである以上、ここで脱炭素電源をきちんと活用しなければ、政策目標との整合性が取れません。

 しかし現実には、すでに再エネが余っている地域と、需要が集中している地域の間で大きなミスマッチが生じています。九州では出力抑制が頻発しています。北海道でも道内の送電線容量が不足し、道北等で発電した電力を有効活用できないケースが生じています。

――北海道から東京へ電力を送る連系線を整備するという構想もあるそうです。

 ただ、北海道・東北・東京をつなぐ地域間連系線の整備だけでも数兆円の投資が必要です。DCを東京に置く以外に選択肢がないなら電力を東京に運ぶしかありませんが、計算処理を地方に移せるのであれば、電力が豊富な北海道や九州にDCを置いて、計算処理そのものを持っていく方が合理的ではないでしょうか。「電力を運ぶのか、計算処理を運ぶのか」は、ミスマッチを解消するための根本的な問いなのです。

 加えて、国内のDC事業者がハイパースケーラーと真正面から競い合うには限界があり、地域の特性を生かしたビジネスモデルを構築することが国内事業者の競争力強化という観点からも有効な戦略になりえます。

――西角さんたちのグループはChatGPT登場以前のレポートで、ネットワークを流れるデータ量の急増によって、周波数の逼迫、基地局投資負担の急増、電力消費の拡大という「情報インフラの三重苦」が同時進行するだろうと予測されていました。

 はい。今日の課題は突然現れたものではなく、デジタル社会の進展とともに積み上がってきたものであり、その構造的な課題を包括的に解こうというのが、「ワット・ビット連携」という提言の出発点です。