ワット(電力)とビット(情報処理)を
地方でマッチさせる
――その提言はどのようなものですか。
ワット・ビット連携の本質は、「ワット(電力)とビット(情報処理)がマッチする場所を、東京ではなく地方にする」ということです。現在は電力供給もDCも東京・大阪に集中していて、ワットとビットを都市部でマッチさせている。これを、再エネが豊富な北海道や九州にDCを置いて、ビット側の計算処理もそこへ持っていくことで、地方でマッチさせましょうという考えです。
そのために必要なビット側の対応は2つあります。一つは「ワークロードシフト」といって、東京や大阪で処理されている計算を北海道や九州のDCに移動させること。もう一つは地産地消です。北海道に住む人々や北海道の産業から生まれるデータを、東京に送って処理するのではなく、地元のDCで処理するということです。
この二つを組み合わせることで、地方のDCに電力と計算需要の両方を集め、ワットとビットをマッチさせるわけです。私たち三菱総合研究所(MRI)は、この「ワット・ビット連携」を「1.0」「2.0」「3.0」という3つのプロセスで提言しています。
――具体的にどう進める考えですか。
ワット・ビット連携1.0では、DCを含むインフラの配置を最適化します。大規模なDC拠点を地方に分散させるのがこの段階の目標で、どのエリアに、どのような集積拠点を作るべきかが問題となります。
配置場所の選定にあたっては、ワット側の視点、ビット側の視点、経済・社会の視点という三者それぞれの側からの評価項目を考えました。ワット側からは脱炭素電源の活用と電力の需給変動への対応能力、ビット側からはDCとしての経済合理性・運用可能性・低遅延性、経済・社会の視点からは経済安全保障・産業競争力への貢献と地域経済への波及を挙げました。
――利害が異なるので、三者それぞれの視点での指標が必要ということですね。
脱炭素電源の活用については、再エネ発電の出力抑制などのムダをいかに減らせるかが、ワット・ビット連携の効果を測るわかりやすい指標の一つになります。
インフラの大規模拠点を東阪集中から5エリア(東京・大阪・北海道・九州・東北)に分散することで、2040年予測では燃料費・CO2コストで年間約650億円の削減効果が期待できると試算しています。また、北海道内では道北・道南にDCを分散させると、700GWh/年の出力抑制削減と年間100億円程度のコスト削減効果が見込めます。
一方、低遅延性は、地方へのDC分散に対して必ず出てくる懸念です。たとえば、ChatGPTのような対話型サービスでは0.1秒程度の遅延があっても利用者にはほとんど気づかれませんが、ドローンの飛行制御のようなリアルタイム処理では0.1秒の遅延が致命的になります。このようにユースケースによって低遅延の要件はまったく異なり、一律に遅延があるからだめだとは言えない。地方分散の議論を前に進めるためには、そこを丁寧に整理しなければなりません。
当社では2040年の需要を前提に、計算処理を全国5拠点に分散させた場合の遅延への影響のシミュレーションを行いました。東京・大阪の計算の一部を北海道等の他地域に移すことで、ネットワーク部分の遅延は増加するのですが、オール光ネットワーク技術の採用でその増加幅を数ミリ秒以内に抑えることが可能との試算結果になりました。この技術はすでに実用化されており、今後の普及が期待できます。
――オール光ネットワーク技術は、注目されていますね。ワット・ビット連携2.0はどうなりますか。
ワット・ビット連携2.0は、分散させたDCを有効活用するための運用の最適化です。どれだけ優れた配置にできたとしても、計算処理を持ってくる仕組みがなければ、設備を地方に置くだけに終わってしまいます。
カギとなるのは「ワークロードシフト(WLS)」の実現です。電力の需給状況やDCの稼働率に応じて、計算処理を動的に各地のDCへ振り分けます。たとえば九州で再エネが余っているタイミングで、東京で予定していた処理を九州のDCにシフトするのです。これなら再エネの有効活用と地方DCの稼働率向上を同時に達成できます。
この実現には、複数のステークホルダー間での調整が不可欠です。グーグルのような大規模な事業者は自社内でDCと計算需要の両方を持っているためワークロードシフトを比較的簡単に行うことができます。
しかし、日本のマーケットでは電力会社・DC会社・通信会社などのステークホルダーがそれぞれ別の会社として存在しており、誰かが一元的にコントロールできる状況にはありません。「誰がどのタイミングで計算を移し、誰が利益を得て、誰がコストを負担するのか」というインセンティブ設計を複数のプレイヤー間で合意しなければならないのです。
私たちは、こうした複数事業者間の調整機能を担う「オーケストレーター」と呼ぶ役割の設置を提案しています。オーケストレーターが電力の需給状況やGPUの空き状況を把握し、計算タスクの時間的・空間的な最適分配を指示します。総務省でも2026年度にワークロードシフトの実証事業が始まる予定です。
――1.0が終わってから2.0というわけではない。
1.0と2.0は表裏一体の関係として、同時に進んでいくものです。その先に、地域活性化に資するワット・ビット連携3.0を実現していきたいと考えています。
*後編(明日公開)では、日本での具体的な事例を紹介していきます。
西角直樹(にしかどなおき)
三菱総合研究所 政策・経済センター フェロー
1968年、神奈川県生まれ。東京大学工学系大学院修了。1997年、三菱総合研究所入社。情報通信分野の競争政策や料金政策などの政策立案支援、ブロードバンドやモバイルの事業戦略コンサルティングなどに従事。2020年より研究提言チーフとして情報通信分野の自主研究や大学などとの共同研究、政策提言の取りまとめを担当。









