「残された家族の気持ちを考えてください!われわれは母を亡くし、悲しみに打ちひしがれているのです。母を心安らかに送りたくて高いお金を払ってお願いしたんですよ。もっときちんと話を聞いてくれたっていいでしょう!」
篠宮さんの言わんとするところもわからぬではない。しばらく待てば落ち着くだろうと黙って聞いていた。
ところが、篠宮さんは自分の言葉に自分で興奮してくるタイプのようだった。
「『できるかぎり、お母さまの思い出をうかがい』と言いましたよね。あれは噓なんですか?あなた、それでも僧侶なんですか?遺族にこんな仕打ちをして僧侶として恥ずかしくないんですか?」
強い口調で責められて我慢ができなくなった。
「わかりました。できるだけ良い戒名をとは考えていましたが、私ではご不満なようですからもうやめましょう」そう言うと篠宮さんがひるんだ。「いや、そこまでは……」などと口ごもっている。
『葬式坊主なむなむ日記――檀家壊滅! 還暦すぎて派遣で葬儀に出かけます』松谷真純 (著) 三五館シンシャ
ただ、私も収まりがつかず、「仲介の業者さんには私から伝えますね。これで失礼します」と伝えて電話を切った。
すぐに「気配りのお葬式」社に電話して事情を伝えた。担当者は、こうした施主とのトラブルはままあることだとフォローしてくれ、あっさりほかの僧侶に担当替えということになった。結果、私にはなんのペナルティ*もなかった。
この件から数カ月がすぎたころ、携帯に着信があった。番号はあの篠宮さんだった。かけ間違いだろうとそのまま放置したが、その後、間を置いて2回ほどかかってきた。
今ごろ、私に電話をしてくるのはどうしてだろう。まさか「やっぱり戒名をつけてください」とでも言うのだろうか。電話してきた理由には興味が湧いたが、あのときのやりとりを思い出して無視することにした。そのうちに電話はかかってこなくなった。







