「今回、戒名授与をさせていただきます、東法院の松谷と申します。これから戒名を考えるにあたり、いくつかおうかがいしたいことがあります」

「気配りのお葬式」社の一般的プランでは戒名は「信女」だ。追加料金を払って「大姉号」を希望されるわけで丁寧にヒアリングすることにした。僧侶もサービス業というわけだ。

「お母さまはお若いころは何かお仕事をされていたんでしょうか?」

「いえ、専業主婦でした」という答えのあと、篠宮さんは絶句した。

「……もう少し生きてほしかった」電話の向こうから嗚咽が聞こえてくる。

「肺がんで……それが最後は脳にも転移してしまって……」

 私はあくまで冷静に会話を続ける。「何か特別なご趣味とかお持ちでしたか?たとえば、華道や茶道の師範をされていたとか」

「母は働きづめでしたから趣味に時間をかけることはできなかったと思います」

「では、ご家族から見てどんなご性格でしたか。厳しいとか穏やかとか、大まかな感じで構いません」

 しばらく故人についての聞き取りを行なった。戒名作り*は仏教的プロファイリングみたいなもので、「どんな人生を歩んだか」「性格」「職業や地位」「趣味や特技」「家族との関係」を聞き取り、宗派ごとの定石に沿いながら「その人の色合い」を表現する。画一的になってはいけないし、響きのよさにも気をつけなければならない。私は子を持ったことはないものの、わが子の命名に近い作業といえるかもしれない。

「少し考えてつけさせていただきますね」と伝えると、篠宮さんが追いすがるように言う。

「母のことをもっともっと知っていただきたいのです。母は本当に働き者でした。誰に言われたわけでもないのに、いつも誰かのために動いてる人でした。おしゃべりは大好きでしたけど、それでいて自分のことはあまり話さなかったんです」

 そういってお母さんの在りし日のエピソードを話し始めて、なかなか終わらない。これは困ったなと思った。