自分の考えや価値観と相手の考えや価値観が合わないときは、自分自身の考えや価値観を相手に伝えることに慎重さが求められます。違っていても理解し合える相手なのか、違っていることを理由に否定してくるような相手なのか、見極めが必要だからです。

 そのなかで相手の考えや価値観が自分と重なることがわかれば、私たちは自分についてオープンにしていき、相手との距離を近づけていきます。そして、相手が自分にとって本当に安全な相手なのかを見定めていきます。

『自他の境界線を育てる 「私」を守るバウンダリー』書影自他の境界線を育てる 「私」を守るバウンダリー』(鴻巣麻里香 ちくまプリマー新書、筑摩書房)

 そのうえで相手が自分にとって害になるとわかった場合は、私たちは境界線を厚くして、自己開示を最小限にし、距離をとり、自分を守ります。相手が自分にとって安全な場合は逆です。価値観や考えに通じ合える部分が多く、この人は決して自分を傷つけることがないという安心が得られれば、境界線をゆるめます。これが、境界線の調節機能です。

 この調節機能にエラーが生じると、自分にとって害となる相手の言うことや態度もすべて受け入れてしまい、やがて自分で自分を否定するようになってしまいます。逆に、自分にとって安全かもしれない相手と距離をとりすぎてしまって、孤立してしまうこともありえます。

 または、相手のことがよくわからないうちに近づき過ぎてしまい、少しのズレが見えると急に苦しくなって相手を遠ざけて、振り回したり振り回されたりしてしまいます。

 境界線を身につけたり育んだりするというのは、ただ分厚く強くすることではありません。相手によって厚さや強度を変える、調節機能を身につけるということです。