彼はしばしば、「アートの枠組みそのものを揺るがす挑発者」として語られます。その象徴的な作品のひとつが、2019年12月にアメリカ・マイアミで開催されたアートフェア「Art Basel Miami Beach」で発表された「Comedian」でした。梱包用の銀色のテープで壁に貼り付けられた1本のバナナ。どこででも手に入る食用バナナです。これだけで、1点12万~15万ドル(約1800万~2250万円)という値段が付けられ、それが出品された3点すべて完売したことで、世界中に衝撃を与えたのです。
バナナは、一見すると、食べられるだけの普通の果物です。つまり、この作品は、バナナそのものよりも、「そのアイデア」や「コンセプト」が価値を持つという現代アートならではの考え方に沿って制作されているのです。
この作品では、実際に購入者が手に入れるのは「バナナそのもの」ではなく、「作品の証明書」と「インストラクション(指示書)」でした。バナナは時間が経てば腐るため、指示書には「バナナが腐ったら、新しいバナナに交換する」旨が書かれていました。
驚いたことに、展示中に来場者の1人がその場でバナナを食べてしまうという事件が起こります。バナナはすぐに新しいものに交換され、展示は続行されました。しかし、この一連の出来事自体が、カテランの意図を浮き彫りにしています。つまり、作品の物理的な価値よりも、それをアートとして認識し、高額を支払う資本主義のシステムそのものが作品の一部だったのです。バナナが食べられてしまった、というハプニングすらも作品のコンセプトを強く印象付ける結果となりました。
この作品の牽引性は、この馬鹿馬鹿しいバナナ1本の展示から、誰かに食物として食べられてしまうというまでの一連の出来事のなかにあります。
カテランのアイデアの
源泉となった黄金の便器
しかしいくら馬鹿馬鹿しい出来事がアートになるからといっても、この一連の出来事だけでは今ひとつ話として腑(ふ)に落ちないでしょう。
実は、このバナナの作品に先がけて制作された作品があったのです。それが黄金の便器の作品です。ここでちょっとした事件があり、カテランは、それを受けてバナナの作品をつくりました。







