「E君がうちに入ってくれたら、あと1億は売上が立つね」

 うれしくて、そんな言葉をかけたこともある。彼もますますやる気になってくれたのだろう。朝から晩までずっと会社にこもって仕事を続けるようになった。

 時給も、最初の1000円から急上昇。すべては好調に見えた。しかし、僕の言葉をストレートに受け取った彼は、大学にほとんど行かなくなっていたらしい。そして、親に対して「大学をやめて働く」と宣言していたようだ。

 結果、ある日突然、E君の母親が会社に怒鳴り込んでくることになる。

「“こんな会社”に入るために、ウチの子を東大に入れたわけじゃない!」

 初対面なのに、超ハイテンションでいきなり叫び出す母親。僕も含め、そこにいたスタッフ全員が面食らい、固まった。激昂する母親の胸中はわからなくもない。「苦労して灘中、灘高、東大に進学させたのに……」という気持ちがあったのだろう。

 とはいえ、僕たちはドン引きである。言葉を失った僕は何と言えばいいのかわからず、ほかのスタッフが母親をなだめ、なんとかお引き取りいただいた。

ネットベンチャーが
お気に召さなかったお母様

 ここで大事なのは、E君の気持ちだ。

 僕は確かに「当社で働いてほしい」とアピールした。その気持ちに偽りはない。でも「大学を休んでほしい」「大学をやめてほしい」とは一言も口にしていない。

 ということは、彼自身が自分の意志で、大学を休んだり、「やめたい」と宣言したりしたのだろう。

 それなのに、母親が僕たちに怒りの矛先を向けるなんて、おかしくないか。もしかすると「バイト先の大人たちが、息子を甘言でたぶらかした」とでも認識していたのだろうか。

 僕はこの事件で、すっかり意気消沈した。世間が僕のことをどう捉えているか知らないが、この手のことに関しては意外とナイーブで、繊細なのである。

 その後も母親に反論したり、E君を呼びつけて食ってかかったり……なんてことはしなかった。しばらくしてE君は当社のバイトをやめた。そりゃそうだろう。