それはどういう意味なのかというと、無駄なごてごてした装飾を外していく、という引き算の美学でした。白シャツを何枚も持っていて、それもすべて男物を。

 おしゃれは他人のためでなく、自分のためにするものという考えだったのです。身体を締め付けるものや、足の指が痛くなるものなど、どうして履く必要があるの?というわけです。

 パリ郊外のシャンティーユ城の前にある競馬場で、毎年エルメスがスポンサーをしている「ディアヌ杯」を見学するために、パリの社交界「トゥ・パリ」のセレブや、私たちジャーナリストも招待されていました。

 女性はローブ・ドゥ・ソワレ(イブニングドレス)につば広の帽子、男性はタキシード姿でやってくるような豪華絢爛なパーティーでした。世界的な最高級バッグに、自分の名前が付いているジェーン・バーキンも、当然招待されていました。

 ところが彼女は相変わらず白いTシャツにジーンズ、それにコンバースのスニーカーでふらりとやってきて、着飾っている私たちの方をじろじろ見ると、みんなどうしたの?仮装大会なの?というように笑っていました。その場で彼女は、状況を逆転させたのです。

 それはジェーンだからできたことで、一般的にドレスコードを破るというのはよほどの度胸がないとできないものです。

“足に負担のある靴”は
おしゃれとは言えない

 またあるとき、ジョン・ガリアーノ(編集部注/世界トップクラスの服飾大学セントラル・セント・マーチンズを首席で卒業したデザイナー。自身の名を冠したブランド「ジョン・ガリアーノ」のデザイナーや、メゾン・マルジェラのクリエイティブディレクターを務めた)のショーなどに出ていたモデルのスーザンと、どこかのパーティーで会ったときに、赤地に黒い模様の素敵なフラットシューズを履いていました。それどこのなの?と聞いたところ、「今日は足が痛くて高いヒールを履けないので、家で片方の靴だけ暖炉で少し焼いたらこんなデザインになったの」と、すましていました。アイデアひとつで、そんな奇抜なスタイリングができたのです。