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ケモブレインという言葉を聞いたことがあるだろうか。抗がん剤(ケモ)治療中や治療後に、記憶力や思考力が一時的に低下する症状を指し、一説によると治療中の75%が経験するという。
具体的にはマルチタスクが難しい、集中力の低下、細かいことを思い出せないなどで、その程度は「気にならなかった」という人から「認知症にもなったのかと情けなくなった」という人までバラバラ。症状が続く期間も数カ月から十数年と個人差が大きく、治療後の生活に支障が出ることもある。
ケモブレインの発症機序やリスク因子は明らかではないが、症状を軽減する方法が全米の多施設共同試験から報告されている。
本試験の対象は、初発もしくは再発で抗がん剤治療を受ける21歳以上のがん患者(白血病と遠隔転移例は除外)。仕事は困難だが、自律した生活を送れている687人を(1)6週間の自宅運動プログラム(EXCAP)群と、(2)口頭での運動推奨など通常ケア群にランダムに割り付け、抗がん剤治療中の認知機能低下と疲労感との関連を調査した。
EXCAPは抗がん剤治療中のがん患者向けに開発された運動プログラムで、ウオーキングと3種類の強度のゴムバンドを使ったスクワットなどの筋トレを、主観的な「ラク」~「ややキツい」の範囲で段階的に歩数や強度を増やしながら毎日行うもの。EXCAP群は初回に60分間の指導が行われ、その後は2週間ごとにフォローがなされた。
その結果、参加者全員が治療中に認知機能の低下を感じたが、EXCAP群は通常ケア群と比較して、自己申告と客観的な指標による認知機能の低下が有意に少なかった。
特に2週間サイクルで抗がん剤治療を受けていたグループでは差が明らかだった。また、運動量が多くなるほど、認知機能の低下が抑えられることも示された。
この抑制効果は、抗がん剤治療中に現れる何ともいえないだるさでも認められた。研究者はウオーキングと筋トレの組み合わせが、ケモブレインと疲労感の改善に有効だとしている。
抗がん剤治療直後は、吐き気やだるさで立ち上がるのもつらいが、落ち着いた頃に頑張って身体を動かしてみよう。その時間が脳を守ってくれる。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)







