来店するとまず接客サービスが違います。ホールの従業員が席に案内してくれて、メニューを解説してくれて、お茶を提供します。注文が厨房に伝えられるとそこには職人さんが立っています。まな板の上に置かれた適温で上質の肉の塊を眺めて、美味しそうな部分に研ぎ澄まされた包丁を当てて切り出します。
衣の細かさ、揚げ時間、蒸らしなど、その日の天候や気温によって職人技で細かく調整して、極上のとんかつを揚げてくれます。
そのおいしいとんかつが柔らかく炊きあげられたお米と、豚汁、香の物を添えたご膳として並べられて従業員の手で提供されます。チェーンによっては食事の合間にきざみきゃべつの追加サービスも提供されます。
このように従来型のとんかつチェーンは、食事体験全体を楽しませてくれるサービス業としてビジネスモデルが設計されてきました。
業界のパイオニアである「かつや」が日本で最初といっていいとんかつ専門のファストフードとしてビジネスモデルを再構築した際には、この従来のプロセスを、付加価値をそれほど落とさない形でいかに標準化するかに知恵を絞りました。
従来型の外食産業で最も大きいコストは実は豚肉ではなく人件費です。第一段階のファストフード化では「プロではない従業員でも同じ品質が出せる」ようにビジネスプロセスを組み替えます。
たとえばとんかつについてはセントラルキッチンという工場であらかじめ加工して店舗では自動フライヤーで揚げるだけにする。加工の際には厚みを統一するなど規格化を進めることで揚げた際の品質も一定になります。
「いやいやせっかくの豚肉をチルドではなく冷凍のフライ物にして調理したら味が落ちるじゃないか」
北大路魯山人ならそう指摘するかもしれません。でも冷凍加工の技術は最近は物凄く進んでいます。
理論的には職人が手こねして衣をつけて揚げたかつの方が美味しいのは間違いないとしても、最近の工場加工品を自動フライヤーで揚げたものと目隠しで品質の差に気づくのは非常に難しいことも事実なのです。
そのうえでメニューを絞ることでファストフード化のビジネスモデルが完成します。「かつや」の店舗を思い出していただくとわかると思います。入店するとカウンターがあって前の人のお皿を店員さんが片付けて、テーブルを拭いたら席に案内されます。
メニューの中から「ロースかつ定食」を選ぶと席からは見えない厨房の中でさきほど説明したようなプロセスでおいしいかつが揚げられて、トレイにセットされた定食が席に届けられます。
「和幸」や「まい泉」がプロの職人さんやベテランの従業員に接客させていたビジネスプロセスを、パートやアルバイトでも短期間に学べるようにしたことで、とんかつビジネスはファストフード化に成功します。







