ジャカルタMRTの建設にあたって、日本側はこう主張した。「鉄道は日本が建てる。しかし、運営はインドネシア人がやらなければならない」「日本のやり方がここに永遠に通用するとは限らない。技術と知識の移転においては、インドネシアの自立性を重んじる」。
この言葉は、中国のインフラ外交が容易には口にできない言葉だ。債務の罠(わな)と批判される融資条件、中国人労働者の大量派遣、現地人材の育成より完工を優先する姿勢――中国モデルとの対比において、日本の「自立支援型」アプローチは明確に異なる。結果として、ジャカルタMRTは2019年の開業以来、融資の返済に問題は生じていない。
日本の優位性は、鉄道や道路という「見えるインフラ」だけにとどまらない。
日本が作る「国際決済システム」
中国が模倣できないワケ
近年、複数の欧米金融機関が太平洋島嶼(とうしょ)国向けのサービスを縮小・撤退した。国際送金が困難になれば、海外投資の受け入れも、輸出入取引も滞る。経済の血液循環が止まるのだ。
こうした状況に対し、日本は経済安全保障の観点から動いた。財務省は2026年5月、オーストラリア・米国・ニュージーランドと連携し、太平洋島嶼(とうしょ)国向けの新たな国際決済システム「太平洋決済メカニズム(Pacific Payment Mechanism)」の制度設計を進めている。これは、中国の金融的影響力の拡大を抑える意味合いも持つ。
こうした動きは、中国には容易に模倣できない。長期的な信頼の蓄積と、制度的な関与があって初めて可能になるからだ。カネを撒くだけでは手に入らない。
ユソフ・イシャク東南アジア研究所(ISEAS)の「2026年東南アジア情勢調査」が示す数字が、このことを雄弁に語っている。日本は約66%の信頼度で、ASEAN諸国がもっとも信頼する大国に選ばれた。欧州連合(EU)の56%を上回り、中国・米国を引き離している。
「中国か米国か」という二択の枠に、日本は収まっていない。日本はその枠の外に立ち、独自の信頼を築いている。
習近平は、鉄道や港湾を建設すれば影響力も手に入ると考えた。しかし、東南アジア諸国が重視しているのは、巨額の資金だけではない。「長く安心して付き合える相手」である。中国が主に建設してきたのはインフラであり、日本が時間をかけて築いてきたのは制度への信頼である。
ODAを単なる人道支援ではなく
地政学的投資として捉え直す試み
2026年5月2日、高市早苗首相はベトナムの首都ハノイで演説に臨んだ。ODA(政府開発援助)やOSA(政府安全保障能力強化支援)を、インド太平洋関与のための政策手段として位置づけ、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けた日本の関与をあらためて宣言した。
この演説は正しい方向を向いている。インド太平洋における日本の役割を戦略的に定義し、ODAを単なる人道支援ではなく地政学的投資として捉え直す試みだ。
だが、国内を振り返れば、その地盤は静かに侵食されている。







